王都の底
白煙が流れる。
鐘の音。
悲鳴。
市場はまだ混乱していた。
だが。
ユーリイたちの空気だけが妙に静かだった。
「消えたっすね」
リナが短剣を戻す。
タッカーが黒い羽根を拾い上げた。
「……鳥か?」
「違う」
ユーリイが即答する。
羽根を見ている。
黒。
だが。
光の当たり方で、僅かに蒼を帯びて見えた。
その瞬間。
メローペが小さく呟く。
「王城の伝令鴉……?」
マルグリットの顔色が変わる。
「馬鹿な」
ユーリイが視線を上げる。
「何ですかそれ」
マルグリットが低く答える。
「王城内部でのみ使われる伝令用の鴉だ」
「外部へ流れることはない」
沈黙。
嫌な空気だった。
つまり。
王城内部。
あるいは。
それに準ずる位置の誰か。
関わっている。
リナが乾いた声を出す。
「うわぁ……」
「嫌な方向へ予想当たってるっす」
「当たってほしくなかった」
タッカーがぼやく。
その時だった。
遠くから足音。
多数。
しかも速い。
マルグリットが即座に剣を抜く。
「来るぞ!」
次の瞬間。
屋根の向こうから黒装束が飛び出した。
五。
いや。
七。
完全武装。
短弓。
湾刀。
統率されている。
ユーリイの目が細くなる。
「今度は本気だ」
黒装束たちが一斉に動く。
速い。
だが。
ユーリイたちも動いた。
リナが屋根を蹴る。
短剣。
金属音。
その横をユーリイが滑るように抜ける。
真正面から戦わない。
足場を崩す。
瓦を割る。
視界を切る。
樹海の戦い方だった。
マルグリットはそれを見ていた。
正規軍ではない。
だが。
洗練されている。
“生き残るため”だけに特化した動き。
その時。
一人の黒装束がメローペへ迫る。
速い。
マルグリットが反応する。
だが。
その前に。
ユーリイが割り込んでいた。
短刀。
火花。
距離が近すぎる。
黒装束が驚く。
ユーリイの動きが異様だった。
踏み込みが浅い。
だが。
無駄がない。
まるで。
「死なないため」の動きだけを積み上げたような。
次の瞬間。
ユーリイが低く呟く。
「落ちろ」
蹴り。
黒装束の体勢が崩れる。
そのまま屋根から落下した。
悲鳴。
地面。
鈍い音。
マルグリットが息を呑む。
迷いがない。
殺意ではない。
生存優先。
樹海。
その時。
別方向。
矢。
リナが叫ぶ。
「伏せろっ!」
矢が飛ぶ。
タッカーの肩を掠めた。
「っ!」
「タッカー!」
ユーリイが振り向く。
タッカーが顔をしかめる。
「大丈夫だ!」
だが。
血は出ていた。
その瞬間。
空気が変わる。
リナの目から笑みが消えた。
「……あーあ」
低い声。
かなり危険な声だった。
ユーリイも静かだった。
マルグリットは気付く。
この二人。
仲間を傷付けられた瞬間。
空気が変わる。
完全に。
樹海の生存者へ戻る。
その時。
屋根の向こう。
鐘楼の上。
灰銀の髪が揺れた。
あの女。
こちらを見下ろしている。
笑っていた。
ユーリイが睨む。
女が小さく口を動かす。
『生き延びなさい』
声は聞こえない。
だが。
そう見えた。
次の瞬間。
鐘楼の上から。
弩弓。
巨大な矢。
放たれる。
「っ!!」
ユーリイの叫び。
矢は。
鐘楼そのものを破壊した。
轟音。
崩落。
鐘が落ちる。
王都全体へ、凄まじい音が響いた。




