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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
4/11

曹長の訓練

三十二人の新兵が並んでいる。


ざわついた空気。


ひそひそ声。


その前に立つのは、小柄な女。


「曹長のロスっす」


軽い口調。


一瞬、静まる。


だがすぐにざわめきが戻る。


「……あれ?」


「え、あれが?」


「聞いてたのと違くないか?」


誰かが小声で言う。


「英雄曹長って、もっと……」


言葉を濁す。


別の新兵が引き継ぐ。


「でかくて、もっとこう……」


「化け物みたいなやつかと」


笑いが漏れる。


「なんだよ、普通じゃん」


「ちっさ」


ロス曹長は気にしない。


「今日から一週間、自分が担当するっす」


「自分の担当って、7日間あるんすよね」


「んーっ、よし!最初の三日間、鬼ごっこしましょう」


ざわめき。


ロス曹長は軽く続ける。


「みんなは自分が出発して、三十分後にスタートっす」


更にルールを付け加える。


「判定は簡単っす」


ざわめき。


「自分を目視して、声をかける」


一拍。


「それか、自分の身体に触れる」


指で軽く示す。


「どっちでもいいっす」


「成立した時点で終了」


「まぁ、普通の鬼ごっこっすね」


「あと追加ルールっす。逆にこっちから触ったり声をかける事も出来る。自分にやり返されたものはその場で終了。」


「この部屋に戻って待機すること。」


さらに。


「そうっすね」


少しだけ口元を緩める。


「頑張った人にはご褒美をあげるっすよ」


新兵たちの視線が揃う。


「一日生き延びた人には、一個」


「二日なら二個」


「三日持ったら——」


わずかに間を取る。


「ドーンと五個」


「王都で一番美味いパン、1ヶ月の間毎日奢るっす」


一瞬、沈黙。


新兵の一人が苦笑する。


「……パンっすか」


ロス曹長はあっさり返す。


「陸軍の給料、安いっすからね」


「曹長程度だとこれが限界っす」


小さな笑いが起きる。


空気が少し緩む。


その中で、一人が前に出る。


自信ありげな顔。


「だったら、美味いパンご馳走になろうかな」


周囲を見回す。


「毎日五個も食えねぇし、余ったらお前らにもやるよ」


笑いが広がる。


ロス曹長はそれを見て、何も言わない。


ただ一言。


「開始っす」


――


三時間後。


全滅。


誰も身体に触れるどころか声もかけられなかった。


「……は?」


「一日目、午前終了っす」


「じゃあ罰として——残りは走るっすよ」


日が落ちるまで走らされる。


――


翌日。


「今日は自分が鬼になります」


「自分は君たちが出発した一時間後に出発するっす」



開始。


――


二時間後。


全滅。


「夕暮れまで走って二日目終了っす」


「あと五日あるっすね」


――


その後の五日間。


走る。


考える。


動く。


止まらない。


壊される。


作り直される。


訓練ではない。


矯正だった。

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