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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
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理と偏見

広間。


長机の向こうに貴族たちが並ぶ。


その前に立つのは、白衣の一団。


中央に、奥医師。


セレスティア・ヴァルメリア。


その後ろに複数の御典医。


その中に、ミークニーの姿もある。


ーー


「本日は、昨年末に発生し大流行した病について報告をいたします」


落ち着いた声。


場が静まる。


報告が続く。


被害。


推移。


対策。


淡々と。


「今年度も疾病対策において、皆様方のお力添えをお願いしたく存じます」


一礼。


ざわめきが戻る。


「我が領からは昨年度、どれだけの資金提供があったか」


「我が領も未だに発生がくすぶるように出てくる」


「対策もうまく働かず、金だけ出せとはな」


「やれやれ」


「昨年、こちらのザッカー医師が提案した防疫指針に従っていただけましたか」


御典医の一人が問いかける。


「ああ、あの手洗いの徹底とか、飲み水の加熱殺菌とかか」


「患者の衣料の焼却もあったな」


「やっている、やっている」


軽い調子。


「それでも一向に減らないのだが」


空気が歪む。


「王都では結果が出ています」


御典医の声が強くなる。


「お止めなさい」


セレスティアが静かに制する。


「ラグナール侯爵、王都では昨年、大流行前に沈静化しております」


「ザッカー医師の提案は、極めて理にかなったものです」


小さな笑いが漏れる。


「所詮は不能部隊の衛生兵上がりの意見ではないか」


「男が少し奇抜なことを言うと目立つものね」


「奥医師殿も、男の色香に惑わされたか」


「研究一筋も困りものですな」


「閨で聞いた世迷い事ですかな」


笑いが広がる。


ミークニーが一歩前に出る。


軽く一礼する。


「諸卿の仰る通りでございます」


場がわずかに止まる。


「私は元より、不能部隊の衛生兵に過ぎません」


肩をすくめる。


少しだけ笑う。


「学も浅く、色気で採用されたと言われれば……否定は難しいところで」


小さな笑いが漏れる。


「ただ」


一拍。


「王都で結果が出てしまっている以上」


「この“世迷い事”も、少しばかりお役に立っているようでして」


軽く頭を下げる。


「もし差し支えなければ、もう少しだけ続けさせていただければ幸いです」


沈黙。


先ほどとは違う沈黙。


貴族側中央の席で、先程まで沈黙を貫いていた王太子が口を開く。


「それくらいにされよ」


場のざわめきが止まる。


「そこにいるザッカー医師は、陛下が優秀と認め御典医とした者だ」


「彼を侮辱することは、陛下への侮辱とみなされる」


沈黙。


「……そのようなつもりは」


「失礼を」


声が弱くなる。


セレスティアが一歩前に出る。


「アトラス殿下、ありがとうございます」


「いや、礼には及ばん」


短く返す。


ミークニーはアトラスに一礼し、何事もなかったかのように元の位置に戻る。


場は収まる。


だが、空気は変わっていた。


理は示された。


だが。


受け入れられたわけではない。


それでも。


彼の言葉は、すでに結果を出している。

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