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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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値段

路地。


人通りは少ない。


「いい男だね」


声がかかる。


ユーリイは歩みを止めない。


「ちょっと付き合わない?」


気付けば囲まれている。


十人ほど。


女だけの集団。


武器もある。


逃げ道はない。


「……なんだ」


短く返す。


「簡単な話さ」


「少し来てもらうだけだよ」


笑っている。


目は笑っていない。


分かる。


売るつもりだ。


「断る」


間を置かない。


一人が踏み込む。


遅い。


腕を取る。


ひねる。


骨が鳴る。


崩れる。


二人目。


腹。


息が止まる。


三人目。


顎。


倒れる。


声が上がる前に終わる。


動ける者はいない。


ユーリイは一人を引き起こす。


「歩け」


震えている。


それでも歩かせる。


他もまとめて連れていく。


ーー


詰所。


扉を開ける。


中の空気が変わる。


憲兵が姿勢を正す。


「敬礼」


一斉に頭が下がる。


盗賊の女が顔を上げる。


「……なんで、そんなに畏まるのさ」


憲兵が短く答える。


「お前たちは運がいい」


「この方が本気なら、ここには来ていない」


沈黙が落ちる。


意味を理解する。


顔色が変わる。


ユーリイは何も言わない。


「お引き取りします」


「ああ」


それだけで終わる。


ーー


外に出る。


さっきと同じ通り。


人の声。

荷の音。

いつもと変わらない。


「いい男だね」


別の女の声。


軽い調子。


冗談半分。


通りの端。


籠を脇に置いた女が笑っている。


見慣れた顔だ。


「……またそれか」


小さく返す。


近くの女たちが笑う。


ユーリイは袖を少しだけ上げる。


焼き印。


それを見て、女は肩をすくめる。


「知ってるさ」


それでも笑う。


「いい男には変わりない」


ユーリイは何も言わない。


袖を戻す。


通りの空気は軽い。


何もなかったかのように。


彼はその中にいる。

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