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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
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双子王女

私は妹のアステローペとともに、この世に生を受けた。


双子として。


私たちは末の王女として、姉たちに可愛がられて育った。


何不自由なく。

守られて。


それが当たり前だと思っていた。


ーー


空気が変わったのは、七歳の頃だ。


隣国との国境で小競り合いが起きた。


その直後。


事故により、父と五人の母を失った。


二人の母の腹には、それぞれ妹が宿っていた。


生まれる前から、失われた命。


ーー


ノクスを拾ったのは、その頃だったと思う。


死にかけていた。


見つけたのはアステローペだ。


引っ込み思案で、けれどどこか他の人とは違うあの子が、見つけた。


親に見捨てられた黒い猫。


あの子は迷わず抱き上げた。


それが、ノクスだった。


今では、あの子の遊び相手であり、護り手でもある。


ーー


三年前。


少しだけ落ち着きを取り戻した頃。


私たちが十一歳の誕生日を迎えた日。


一番上の姉が死んだ。


事故とされた。


だが、後になって、暗殺ではないかと言われるようになった。


その半年後。


五番目の姉が戦場で消息不明になった。


私たちが一番好きだった、優しい姉だ。


また失う。


そう思った。


「……こわい」


アステローペが小さく言った。


ノクスにしがみついて、震えていた。


私も同じだった。


二人で寄り添って、眠った。


眠ったのかどうかも、よく分からない。


ーー


二ヶ月後。


姉の生還の報が届いた。


抱き合って泣いた。


声が枯れるまで。


帰還の日。


また泣いた。


ーー


王女の帰還。


戦況は落ち着き、王城は浮かれていたのだと思う。


ーー


「賊だ!」


侍女の悲鳴が響いた。


何が起こったのか分からなかった。


気付いた時には、目の前に賊がいた。


アステローペの前に立つ、ノクス。


次の瞬間。


刃が振られる。


赤が広がる。


「……こわい」


声にならない。


体が動かない。


終わりだと思った。


ーー


風が吹いた気がした。


気付いた時には、賊は倒れていた。


そこにいたのは。


家庭教師の伯爵。


そして、見知らぬ二人の男。


ノクスが震える。


低く唸る。


暴れかける。


「押さえろ」


短い声。


一人がしゃがむ。


「噛め」


腕を差し出す。


牙が食い込む。


ノクスの動きが止まる。


もう一人の手が動く。


針。糸。


縫う。


速い。


正確。


あっという間だった。


血が止まる。


呼吸が戻る。


「……よし」


その人は手を拭って、こちらを見る。


穏やかに笑う。


「姫様方、もう大丈夫ですよ」


その一言で、体の力が抜けた。


怖かった。


でも。


それ以上に、助かったと思った。


ーー


後になって知った。


あの軽い男は、宮中の新しい医師だという。


そして、あの二人が姉をこの城に届けた恩人だと。


ーー


「ミークニー先生と、伯爵は相変わらずですね」


そう言うと、彼は笑った。


「相変わらずいい男でしょ?」


「違います」


思わず言い返していた。


「そんな軽口ばかりだから、伯爵があきれるんです」


「まいったなぁ」


困ったように笑う。


あの時と同じ顔で。


あの人は、あのままだ。


ーー


でも。


あの人がいる限り。


きっと、大丈夫だと思ってしまう。

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