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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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222/224

騎士の値打ち

「軽症者はこっちだ!」


「痛い、痛い……」


「そっちを押さえてろ!」


ほんの数時間前まで、数多くの剣士や武道家たちが熱戦を繰り広げていた闘技場は、今や簡易的な救護所となっていた。


係の者や、王都内の救護院から派遣された医師や看護師たちが、所狭しと動き回っている。


担架に乗せられた負傷者が次々と運び込まれ、あちこちから苦痛を訴える声が聞こえていた。


その一角に、フロレンスとユーリイ、そして今大会の主役となったエルザとラファエラ、アデルハイトとリシュエンヌの姿があった。


フロレンスの姿を認めたユーリイは、すぐに頭を下げた。


「すまなかった。今回の黒幕を取り逃がしてしまった」


フロレンスは一度、ユーリイの顔をじっと見つめた。


「何を言う。あんたが今回、多くの人の救助に携わったことは現場関係者たちから聞いている」


そして、視線をエルザへ向けた。


「それからハーゲン大佐。今回は選手のあなた方を危険な目に遭わせた上、多くの人の救助に参加してもらったこと、感謝しています」


「いや、被害を最小限にできてよかった」


エルザは軽く首を振った。


「それよりもフロレンス。あんた、行くところがあるんじゃないのか?」


ユーリイが言った。


「ああ、事故の後処理が残っている。あとでちゃんと礼をするから、忘れるんじゃないよ」


そう言い残すと、フロレンスは足早に立ち去っていった。


「ところで、シーゲル君」


フロレンスの背中を見送っていたリシュエンヌが口を開いた。


「なんでハーゲン大佐と一緒にいるんだい?」


「君は?」


エルザがリシュエンヌへ目を向けた。


「メローペ第四王女殿下近衛隊、リシュエンヌ・フォルティエ少佐です。大佐殿」


リシュエンヌが敬礼する。


エルザも返礼した。


「君もなかなかいい剣士に見える。本当に殿下は良い騎士たちをお持ちだ」


「自分は、そこの戦闘馬鹿みたいじゃないですよ」


リシュエンヌは隣のアデルハイトを指差した。


「わはは!戦闘馬鹿か?私もこのラファエラも似たようなものだな」


エルザが豪快に笑う。


ラファエラは苦笑いを浮かべた。


「さて、さっきの質問には私が答えよう。東門の事故現場で、このシーゲル殿が救助作業をしていたんだ。私がそれを手伝ったという話だ」


「君は相変わらずだねぇ」


リシュエンヌが呆れたようにユーリイを見た。


「……」


ユーリイは何も答えなかった。


そのとき、それまで黙っていたアデルハイトが口を開いた。


「大佐」


「ん?」


「彼が、先ほどお話しした、私を十回叩きのめした男です」


「……彼が?」


エルザは改めてユーリイを見た。


そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「ほう。私に土をつけ、今大会に優勝した少佐を叩きのめした男か」


エルザは腕を組んだ。


「率先して救助活動に飛び込む心意気も気に入った。君はまだ陸軍に?」


「退役しました。一応、予備役扱いですが……」


「なら、ロイエンベルク侯爵領に来ないか?」


「え?」


「私を倒したクロイツベルク少佐をコテンパンにする実力者なら、我が主も大歓迎してくれるはずだ。なんなら、婿に来てくれても良い」


「はは、自分は不能部隊出身ですよ」


ユーリイは右腕を差し出した。


そこには、かつて刻まれた番号と、それを横切る一本の線があった。


エルザはその印を見つめた。


「そうか……それは残念だ。我が主の婿は諦めよう」


「そこまであっさり言われると、こっちも助かりますよ」


「仕方あるまい。私が惜しんだところで、どうにかなるものでもない」


エルザは肩をすくめた。


「まぁ、それでも戦士としての君に興味がある。気が変わったなら、いつでもロイエンベルク領に来てくれ」


「ダメですよ。彼は女王陛下の騎士ですから」


横からリシュエンヌが口を挟んだ。


「そうか、わはは!」


エルザは豪快に笑った。


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