騎士の値打ち
「軽症者はこっちだ!」
「痛い、痛い……」
「そっちを押さえてろ!」
ほんの数時間前まで、数多くの剣士や武道家たちが熱戦を繰り広げていた闘技場は、今や簡易的な救護所となっていた。
係の者や、王都内の救護院から派遣された医師や看護師たちが、所狭しと動き回っている。
担架に乗せられた負傷者が次々と運び込まれ、あちこちから苦痛を訴える声が聞こえていた。
その一角に、フロレンスとユーリイ、そして今大会の主役となったエルザとラファエラ、アデルハイトとリシュエンヌの姿があった。
フロレンスの姿を認めたユーリイは、すぐに頭を下げた。
「すまなかった。今回の黒幕を取り逃がしてしまった」
フロレンスは一度、ユーリイの顔をじっと見つめた。
「何を言う。あんたが今回、多くの人の救助に携わったことは現場関係者たちから聞いている」
そして、視線をエルザへ向けた。
「それからハーゲン大佐。今回は選手のあなた方を危険な目に遭わせた上、多くの人の救助に参加してもらったこと、感謝しています」
「いや、被害を最小限にできてよかった」
エルザは軽く首を振った。
「それよりもフロレンス。あんた、行くところがあるんじゃないのか?」
ユーリイが言った。
「ああ、事故の後処理が残っている。あとでちゃんと礼をするから、忘れるんじゃないよ」
そう言い残すと、フロレンスは足早に立ち去っていった。
「ところで、シーゲル君」
フロレンスの背中を見送っていたリシュエンヌが口を開いた。
「なんでハーゲン大佐と一緒にいるんだい?」
「君は?」
エルザがリシュエンヌへ目を向けた。
「メローペ第四王女殿下近衛隊、リシュエンヌ・フォルティエ少佐です。大佐殿」
リシュエンヌが敬礼する。
エルザも返礼した。
「君もなかなかいい剣士に見える。本当に殿下は良い騎士たちをお持ちだ」
「自分は、そこの戦闘馬鹿みたいじゃないですよ」
リシュエンヌは隣のアデルハイトを指差した。
「わはは!戦闘馬鹿か?私もこのラファエラも似たようなものだな」
エルザが豪快に笑う。
ラファエラは苦笑いを浮かべた。
「さて、さっきの質問には私が答えよう。東門の事故現場で、このシーゲル殿が救助作業をしていたんだ。私がそれを手伝ったという話だ」
「君は相変わらずだねぇ」
リシュエンヌが呆れたようにユーリイを見た。
「……」
ユーリイは何も答えなかった。
そのとき、それまで黙っていたアデルハイトが口を開いた。
「大佐」
「ん?」
「彼が、先ほどお話しした、私を十回叩きのめした男です」
「……彼が?」
エルザは改めてユーリイを見た。
そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「ほう。私に土をつけ、今大会に優勝した少佐を叩きのめした男か」
エルザは腕を組んだ。
「率先して救助活動に飛び込む心意気も気に入った。君はまだ陸軍に?」
「退役しました。一応、予備役扱いですが……」
「なら、ロイエンベルク侯爵領に来ないか?」
「え?」
「私を倒したクロイツベルク少佐をコテンパンにする実力者なら、我が主も大歓迎してくれるはずだ。なんなら、婿に来てくれても良い」
「はは、自分は不能部隊出身ですよ」
ユーリイは右腕を差し出した。
そこには、かつて刻まれた番号と、それを横切る一本の線があった。
エルザはその印を見つめた。
「そうか……それは残念だ。我が主の婿は諦めよう」
「そこまであっさり言われると、こっちも助かりますよ」
「仕方あるまい。私が惜しんだところで、どうにかなるものでもない」
エルザは肩をすくめた。
「まぁ、それでも戦士としての君に興味がある。気が変わったなら、いつでもロイエンベルク領に来てくれ」
「ダメですよ。彼は女王陛下の騎士ですから」
横からリシュエンヌが口を挟んだ。
「そうか、わはは!」
エルザは豪快に笑った。




