決勝①
大観衆が詰め掛けた闘技場は、今日の主役である二人の登場を今や遅しと待ち続けていた。
会場のボルテージは高まる一方だ。
準決勝の両試合が素晴らしいものだっただけに、観客の期待は最高潮に達していた。
国を代表する剣士であるエルザ・ハーゲンは勿論、初めは色物として見られていたカナリア・フランベルジュにも、それ相応のファンが出来ていた。
司会が姿を現す。
会場は僅かに静けさを取り戻した。
「本日お越しの淑女の皆さま、お嬢様方!お待ちかねの決勝戦の時間がやってまいりました!」
歓声が上がる。
「東門からは、我が国が誇る王国十傑!ロイエンベルク侯爵家筆頭騎士兼騎士団長、エルザ・ハーゲン選手の入場です!」
一際大きな歓声が上がった。
東門が開く。
エルザが姿を現した。
その歩みはゆったりと、そして堂々としていた。
開始線まで歩き、立ち止まる。
「続きまして西門からは、正体不明の仮面剣士!当初は色物扱いであったものの、今やその実力はここにいる全ての観客が認めるところ!カナリア・フランベルジュ!」
西門が開く。
カナリアことアデルハイトが姿を現した。
同じように開始線まで歩き、立ち止まる。
二人が中央へと歩みを進める。
その途中、
エルザが足を止めた。
「先ほどは茶番を見せた」
会場が静かになる。
「神聖な大会で無様を晒したこと、大変申し訳なく思っている」
「……」
「我はロイエンベルク侯爵家騎士団長、エルザ・ハーゲン大佐!」
声が闘技場に響く。
「我の敗北は、ロイエンベルク騎士団全体の敗北!」
エルザは剣を握る。
「その名誉にかけて、全力で立ち合わせて頂く!」
カナリアは黙ってエルザを見ていた。
「両者、中央へ!」
審判長の声が響く。
その時、
「待ってくれ」
カナリアが口を開いた。
突然の待ったに、会場が静まり返る。
カナリアは仮面へ手をかけた。
そして、
脱ぎ捨てる。
「……!」
仮面の下から素顔が現れ、
特徴的な漆黒の長髪が露わになった。
観客席の一部から声が上がる。
「私は、第四王女メローペ・アデス殿下近衛隊所属」
カナリア・フランベルジュ。
その名で戦ってきた女が、
初めて本当の名を名乗る。
「クロイツベルク男爵家四女、アデルハイト・クロイツベルク少佐」
エルザの目が僅かに見開かれた。
「メローペ殿下、並びにクロイツベルク家の名誉にかけて、私も全力で戦わせていただく」
アデルハイトは踵を返す。
西門まで歩き、そこに控えていたリュシエンヌへ仮面を差し出した。
「まったく!アデル、あとでお説教だからね」
続いて、手にしていたサーベルも渡す。
リュシエンヌは何も言わず受け取り、
代わりに一本のショートソードと一本のダガーを差し出した。
アデルハイトが受け取る。
右手にショートソード。
左手にダガー。
そして再び、
エルザの前へ。
「お待たせして申し訳ない」
二本の刃を構える。
「これが私の本来の戦闘スタイルだ」
エルザが笑った。
「感謝する」
アデルハイトも構えを取る。
「いざ参る」
審判長が二人を見る。
ロイエンベルク侯爵家騎士団長、
エルザ・ハーゲン大佐。
第四王女メローペ・アデス殿下近衛隊、
アデルハイト・クロイツベルク少佐。
もはやそこに、
カナリア・フランベルジュの姿はない。
「では――」
審判長が腕を振り上げる。
そして、
振り下ろした。
「両者!はじめ!!」




