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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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217/226

決勝①

大観衆が詰め掛けた闘技場は、今日の主役である二人の登場を今や遅しと待ち続けていた。


会場のボルテージは高まる一方だ。


準決勝の両試合が素晴らしいものだっただけに、観客の期待は最高潮に達していた。


国を代表する剣士であるエルザ・ハーゲンは勿論、初めは色物として見られていたカナリア・フランベルジュにも、それ相応のファンが出来ていた。


司会が姿を現す。


会場は僅かに静けさを取り戻した。


「本日お越しの淑女の皆さま、お嬢様方!お待ちかねの決勝戦の時間がやってまいりました!」


歓声が上がる。


「東門からは、我が国が誇る王国十傑!ロイエンベルク侯爵家筆頭騎士兼騎士団長、エルザ・ハーゲン選手の入場です!」


一際大きな歓声が上がった。


東門が開く。


エルザが姿を現した。


その歩みはゆったりと、そして堂々としていた。


開始線まで歩き、立ち止まる。


「続きまして西門からは、正体不明の仮面剣士!当初は色物扱いであったものの、今やその実力はここにいる全ての観客が認めるところ!カナリア・フランベルジュ!」


西門が開く。


カナリアことアデルハイトが姿を現した。


同じように開始線まで歩き、立ち止まる。


二人が中央へと歩みを進める。


その途中、


エルザが足を止めた。


「先ほどは茶番を見せた」


会場が静かになる。


「神聖な大会で無様を晒したこと、大変申し訳なく思っている」


「……」


「我はロイエンベルク侯爵家騎士団長、エルザ・ハーゲン大佐!」


声が闘技場に響く。


「我の敗北は、ロイエンベルク騎士団全体の敗北!」


エルザは剣を握る。


「その名誉にかけて、全力で立ち合わせて頂く!」


カナリアは黙ってエルザを見ていた。


「両者、中央へ!」


審判長の声が響く。


その時、


「待ってくれ」


カナリアが口を開いた。


突然の待ったに、会場が静まり返る。


カナリアは仮面へ手をかけた。


そして、


脱ぎ捨てる。


「……!」


仮面の下から素顔が現れ、


特徴的な漆黒の長髪が露わになった。


観客席の一部から声が上がる。


「私は、第四王女メローペ・アデス殿下近衛隊所属」


カナリア・フランベルジュ。


その名で戦ってきた女が、


初めて本当の名を名乗る。


「クロイツベルク男爵家四女、アデルハイト・クロイツベルク少佐」


エルザの目が僅かに見開かれた。


「メローペ殿下、並びにクロイツベルク家の名誉にかけて、私も全力で戦わせていただく」


アデルハイトは踵を返す。


西門まで歩き、そこに控えていたリュシエンヌへ仮面を差し出した。


「まったく!アデル、あとでお説教だからね」


続いて、手にしていたサーベルも渡す。


リュシエンヌは何も言わず受け取り、


代わりに一本のショートソードと一本のダガーを差し出した。


アデルハイトが受け取る。


右手にショートソード。


左手にダガー。


そして再び、


エルザの前へ。


「お待たせして申し訳ない」


二本の刃を構える。


「これが私の本来の戦闘スタイルだ」


エルザが笑った。


「感謝する」


アデルハイトも構えを取る。


「いざ参る」


審判長が二人を見る。


ロイエンベルク侯爵家騎士団長、


エルザ・ハーゲン大佐。


第四王女メローペ・アデス殿下近衛隊、


アデルハイト・クロイツベルク少佐。


もはやそこに、


カナリア・フランベルジュの姿はない。


「では――」


審判長が腕を振り上げる。


そして、


振り下ろした。


「両者!はじめ!!」


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