決勝直前
「リシュ」
「うん?」
「私は、このまま決勝の舞台に立っていいのだろうか?」
リュシエンヌは少しも迷わなかった。
「勿論だよ」
「そうか……そうだな」
アデルハイトは小さく息を吐く。
「殿下の剣である私は、主の命のまま戦うだけだな」
「そういうこと」
「ところで……」
「何?」
「結局、この大会で不正はあったのだろうか」
「分からない」
リュシエンヌは首を振った。
「ただ、もう一つの準決勝は同門同士だったみたいだけど、勝ったハーゲン大佐はとても辛そうだったわ」
「部下に勝ったから、という感じではなかったのか?」
「うん。そんな感じじゃなかった」
「そうか……」
アデルハイトは少し考える。
「私にも、何か妙には感じられた。ただ、普段の彼女を知らないからな」
「私には、強い二人の戦士が力の限り戦ったように見えた」
少し寂しそうに笑う。
「私は人の感情や心の機微には疎いからな」
「ただ、確かにあの消耗具合は、上手に我武者羅に向かったからという感じではなかったな」
「あとね、シーゲルが誰かを追って駆けていったけど……何か掴んだのかも」
「そうか」
その時、控え室の扉が開いた。
係員が顔を覗かせる。
「カナリア・フランベルジュ選手、もうすぐ入場です」
「分かった」
アデルハイトは立ち上がった。
◇
「隊長、医務室に行ってきたっす」
「ああ、ご苦労だったな」
「いえ。それで、グリセリアの奴なんすけど……」
ラファエラの表情が曇る。
「実際に切った張ったをやったわけじゃないので、命に別状はないそうです。ただ、いくつかの筋と腱の断裂、それと複数箇所の亀裂骨折が確認されたって」
「……そうか」
「あと……数試合した程度の疲労じゃないとも言ってました」
「そうか……」
「……」
しばらく、エルザは何も言わなかった。
「ラファエラ」
「はい」
「お前は、決して安易な手段を選ぶんじゃないぞ」
ラファエラは一瞬だけ目を見開いた。
「はい」
扉が開く。
係員が顔を覗かせる。
「エルザ・ハーゲン選手、間もなく入場です」
エルザが立ち上がる。
「では、行ってくる」
「はい!」
◇
東西に分かれた入場口。
その向こうから、地鳴りのような歓声が響いていた。
片方には、素性を隠した剣士。
カナリア・フランベルジュ。
もう片方には、王国十傑の一人。
ロイエンベルク侯爵家騎士団長、エルザ・ハーゲン大佐。
二人の剣士は、
大観衆が待つ決勝の舞台へと歩き出した。




