準決勝①
四つのブロックを勝ち抜いた者たちによる再抽選
その結果、準決勝の組み合わせが決まった
第一試合
カナリア・フランベルジュ
ベルタ・ローゼンベルク
第二試合
グリセリア・ベリ
エルザ・ハーゲン
会場は組み合わせが発表されてから、先ほどまで以上の熱気に包まれていた
その中で、エルザは一人の女を見つけた
「グリセリア」
呼び止められた女が足を止める
ゆっくりと振り返った
「……隊長」
「お前は……あんな戦い方だったか?」
「……」
グリセリアの口元が僅かに上がった
「辞めたんですよ、あんな軟弱な剣術」
「なに?」
「受けて、流して、隙を待って……いつまで経っても相手を倒せない」
グリセリアは自分の手を見た
そして、強く握る
「今なら、隊長の剛の剣にも勝てるかもですね」
「グリセリア!おまえ!」
少し離れた場所にいたラファエラが声を上げた
だが
「いい」
エルザが片手を上げる
「隊長!」
「次で、どうせやることになるんだ」
グリセリアとエルザの視線が重なる
「ただ――」
エルザの声が低くなる
「お前の変えた剣術で私に勝てるというなら、やってみるがいい」
「……」
グリセリアは何も答えなかった
ただ、また僅かに笑う
そのまま踵を返し、歩いていった
ラファエラがその背中を睨む
「なんなんすか、あいつ……」
「……」
「隊長?」
「ラファエラ」
「はい」
「グリセリアは、いつ頃からああなった?」
「え?」
「剣だ」
ラファエラが少し考える
「ここ最近っすね。強くなったのは間違いないんですけど……」
「そうか」
それ以上、エルザは聞かなかった
先に行われる準決勝第一試合
カナリア・フランベルジュとベルタ・ローゼンベルク
二人が入場口へ向かう
「アデル」
リュシエンヌが小さな声で呼び止めた
カナリアが振り返る
「なんだ?」
「相手、かなり強いみたいですよ」
「そうか」
「ラファエラ・タスカ少尉を倒してます」
「そうか」
「……それだけ?」
「他に何かあるのか?」
「ないですけど」
リュシエンヌは呆れたように息を吐いた
「とにかく気を付けてくださいね」
「ああ」
カナリアはそれだけ答えると、舞台へ向かった
「準決勝第一試合!」
歓声が大きくなる
「カナリア・フランベルジュ!」
黒い仮面
広いつばの帽子
そして腰には一本のサーベル
予選では奇異の目を向けられていたその姿も、今では大きな声援を受けている
カナリアが舞台中央へ歩いていく
「対するは!」
反対側から女が姿を現す
赤い髪
細い眼鏡
こちらも腰にはサーベル
「ベルタ・ローゼンベルク!」
二人が向かい合う
「両者、構えて!」
同時にサーベルを抜く
カナリアが構える
ベルタも構えた
「……」
カナリアの目が僅かに細くなった
どこかで見た構え
いや
サーベルを使う者なら似た構えになることはある
ベルタもまた、仮面の奥にあるカナリアの目を見ていた
「始め!」
カナリアが踏み込む
キン!
最初の一撃
ベルタが受け流す
すぐさま返す
カナリアも弾く
キン!
キン!
キィン!
間を置かず、剣が交わる
カナリアが一歩下がる
ベルタが追う
突き
カナリアが身体を捻ってかわす
そのまま横へ払う
ベルタはサーベルを立てて受けた
ガッ!
一瞬、二人の動きが止まる
「……」
近い
ベルタの眼鏡越しの目が見える
なぜだ
初めて会ったはずの女
だが、その剣を知っている
ベルタが距離を取った
カナリアも追わない
再び構える
ベルタの足が動く
半歩
そこから踏み込む
「!」
カナリアが剣を合わせる
キィン!
身体が勝手に反応した
知っている
今の入り方も
次に来る剣も
カナリアがサーベルを横へ流す
ベルタの剣が来る
受ける
そして返す
だが
その剣もまた、ベルタに読まれていた
キン!
「……」
二人が同時に距離を取った
観客がざわめく
先ほどまでの試合とは違う
互いの攻撃が、互いに読まれている
「なんだ?」
「同じ流派なのか?」
「動きが似てないか?」
カナリアには、その答えが分かり始めていた
クロイツベルク
自分が幼い頃から叩き込まれてきた剣
今では短剣とダガーを使うことの方が多くなった
それでも忘れるはずがない
身体に染みついた剣術
目の前の女が使っているものは
間違いなく――
「ふふ」
ベルタが笑った
カナリアが眉を寄せる
「何がおかしい?」
「いや」
ベルタがサーベルを下げた
「変装なんてするのは、私くらいだと思っていた」
「?」
「久しぶりね、アデルハイド」
「!!!」
カナリアの目が大きく開く
その呼び方
その声
「まさか……」
ベルタが大きく息を吐いた
「あー!うざったい」
赤い髪に手を掛ける
そのまま引っ張った
「え?」
観客席から間の抜けた声が漏れる
赤い髪が外れる
その下から現れたのは
短く切られた黒い髪
次に細い眼鏡を外す
カナリアは、その顔を知っていた
「ブリギッタ姉さん……」
「ようやく気付いた?」
「なぜ、姉さんがここに……」
「それはこっちの台詞よ」
ブリギッタは外した鬘と眼鏡を係員へ投げ渡した
「まさか妹とこんな所で剣を交えることになるなんてね」
会場がざわめく
カナリア
いや
アデルハイトはサーベルを構え直した
「私には、ここにいる理由があります」
「そう」
ブリギッタも構える
「私にはないわ」
「……はい?」
「腕試しよ」
あまりにもあっさりとした答えだった
「……姉さんらしいですね」
「あなたに言われたくないわよ」
一瞬
二人の口元に笑みが浮かんだ
だが
すぐに消える
「アデルハイド」
「はい」
「あなたの剣は、やはりクロイツベルクの技を継ぐ者の剣」
ブリギッタの切っ先がアデルハイトへ向く
「クロイツベルクに戻りなさい」
「……」
アデルハイトは答えない
「返事は?」
「今は――」
サーベルを構える
「試合中です」
「ふふ」
ブリギッタもまた剣を構えた
「そうね」
審判が戸惑いながら二人を見る
「……続行してよろしいですね?」
「もちろん」
「お願いします」
「では――続行!」
二人が同時に踏み込んだ
キィィン!
先ほどまでとは違う
互いに正体を知った
互いに剣を知っている
隠すものは、もう何もない
ブリギッタの剣が走る
アデルハイトが受ける
返す
弾かれる
踏み込む
受け流される
同じ剣を学んだ二人
だが
同じではない
ブリギッタはクロイツベルクの剣を磨き続けた
アデルハイトもまた、その剣を捨てたわけではない
ただ
戦場へ出た
森へ入った
生き残るために剣を振るった
そして
自分の戦い方を作った
それでも今
手にあるのは一本のサーベル
幼い頃から姉と共に振ってきた剣だった
「やぁっ!」
ブリギッタの剣が振り下ろされる
アデルハイトが受ける
重い
だが
押し返す
「!」
一歩
アデルハイトが踏み込む
ブリギッタが剣を返す
それより僅かに早く
アデルハイトのサーベルが内側へ入った
キン!
ブリギッタの剣が宙を舞う
回転しながら床へ落ちた
カラン――
アデルハイトの切っ先が、姉の胸元で止まっている
「……」
ブリギッタが自分の剣を見る
そして妹を見る
「参った」
「そこまで!」
審判が腕を上げた
「勝者!カナリア・フランベルジュ!」
歓声が爆発した
アデルハイトは剣を下ろす
ブリギッタが小さく笑った
「強くなったわね、アデルハイド」
「姉さんも」
「負けた私に命令する権利はありませんが――」
ブリギッタは落ちたサーベルを拾う
「クロイツベルクの剣は、あなたが継ぐべきです」
「……」
アデルハイトは答えなかった
ただ
姉に向かって深く一礼した
準決勝第一試合
勝者
カナリア・フランベルジュ
そして次は――
「グリセリア」
舞台へ向かおうとする背中に声が掛かる
グリセリアが振り返った
エルザが立っている
「さっきの言葉、忘れてはいないだろうな」
「もちろんです」
グリセリアが笑う
「今の私なら、隊長にも勝てますよ」
「そうか」
エルザは剣を抜いた
「ならば、見せてもらおう」
グリセリアも剣を抜く
準決勝第二試合
グリセリア・ベリ
対
エルザ・ハーゲン
ロイエンベルク侯爵家騎士団
上官と部下
二人の戦いが始まる。




