違和感
本戦トーナメントの各ブロック一回戦が終わった頃
ユーリイはいまだ手掛かりを掴めずにいた
一度フロレンスと別れてから、予選を通しておおよそ全ての試合を見てきた
なるほど
流石は国中から優秀な剣士や武術家が集まると言われる大会だ
皆、それなりにやる
以前、王国五十傑に入れないようなら優勝は難しいとは聞いた
実際に見てみれば、それも納得できる
だが――
大きな違和感はない
小さな違和感ならいくらでもある
それを一つ一つ疑い始めたらきりがない
今のところ、一番の違和感は王国十傑と呼ばれるエルザ・ハーゲンが普通に出場していること
その次は、勝ち残っている中に妙な覆面剣士が二人もいることだろうか
何でも疑い始めれば、全てが怪しく見えてくる
各ブロックも、既に決勝まで来ている
今年は――
不正をする者はいないのか
それなら、それに越したことはない
だが
最後まで目を離すつもりはなかった
戦っている者だけではない
そのセコンド
取り巻き
試合の前後に接触する者
見るべきものはいくらでもある
「どうだい?怪しい奴はいたかい?」
いつの間にか戻ってきていたフロレンスが隣に立った
ユーリイは首を振る
「残念ながら」
「そうかい」
「皆、良い剣士だ。流石、国内屈指の剣術大会だな」
「まあね」
フロレンスが少し誇らしげに笑う
「ただ、今まで見た上で、準決勝に出る面々は分かった」
「ほう」
「Aブロックはカナリア・フランベルジュ」
指を一本立てる
「Bブロックはグリセリア・ベリ」
二本
「Cブロックはエルザ・ハーゲン」
三本
「Dブロックはベルタ・ローゼンベルク」
四本
フロレンスが面白そうにユーリイを見る
「聞かせてもらいたいね」
「いや、単純に腕と技を見た感想だ。勿論、フロックがないとは言わないけどな」
「やけに自信がありそうじゃないか」
フロレンスがにやりと笑った
「まだ決勝進出者四人を当てる投票は受け付けているぞ」
「やめとく」
「なんだい、儲かるかもしれないよ」
「変な験が付くと寝覚めが悪い」
「はは、あんたらしいね」
「……」
ユーリイの目が止まった
「うん?」
フロレンスがその横顔を見る
「どうしたい?」
「……俺が準決勝に残るって言った、Bブロックのグリセリア・ベリ」
「うん」
「今、誰かが接触した」
フロレンスの顔から笑みが消える
「どこだい?」
「向こうの観客席。その中にある出場選手専用の観覧席の隅」
フロレンスが目を凝らす
「……あんた、よく見えるね」
「話をしている感じじゃなかった。何か手渡しているようにも見えなかったが……」
「気の所為じゃないかい?」
「かもしれない」
ユーリイは目を細めた
人混みの中を、一人の女が離れていく
ただ近くを通っただけかもしれない
知り合いなのかもしれない
それだけなら何もおかしくない
だが――
「うーん」
ユーリイが立ち上がった
「気になるから、ちょっと行ってくるわ」
「頼んだよ」
「ああ」
階段を下り、人混みを抜ける
先ほど女がいた場所へ向かう
だが
そこへ辿り着いた時には、既に姿はなかった
グリセリアもいない
周囲を見回す
観客
係員
出場選手
その家族や関係者
誰もが普通に大会を楽しんでいるように見える
「……見失ったか」
ユーリイは小さく息を吐いた
まだ何もない
何かを渡したわけでもない
会話すら確認していない
ただ、人が人に近付いただけ
それだけだ
「……」
それでも
ユーリイは、その女の姿を頭に焼き付けた。




