トーナメント本戦④
「始め!」
審判の声と同時に、ラファエラが踏み込んだ
先手を取る
相手がどんな剣を使うのか分からない以上、好きに動かせるつもりはない
鋭く振り下ろされた剣を、ベルタがサーベルで受け流す
キン!
そのまま横薙ぎ
ラファエラが身体を引く
切っ先が胸元すれすれを通り過ぎた
「っと!」
すぐに踏み込み直す
二撃
三撃
だが、届かない
ベルタは大きく動いているようには見えない
必要なだけ剣を動かし
必要なだけ身体をずらす
それだけでラファエラの剣が外れていく
「……強いっすね」
ベルタは答えない
「でも!」
ラファエラが地面を蹴った
一気に間合いを詰める
今度は受け流させない
力を乗せた一撃を叩き込む
キィン!
甲高い音が響いた
ベルタのサーベルがラファエラの剣を受け止める
一瞬
二人の剣が止まった
「!」
ベルタの手首が返る
ラファエラの剣が横へ流された
空いた胴へサーベルが走る
「くっ!」
ラファエラが後ろへ跳ぶ
間に合った
そう思った瞬間
ベルタが既に目の前にいた
「なっ――」
首筋に冷たい感触
ベルタのサーベルが止まっている
ラファエラは自分の剣を見る
まだ構えることすら出来ていなかった
「……参りました」
「そこまで!」
審判が腕を上げる
「勝者!ベルタ・ローゼンベルク!」
歓声が上がった
ベルタはサーベルを収めると、ラファエラへ一礼した
ラファエラも一礼を返す
「ありがとうございました」
舞台を降りながら、自分の手を見る
悔しい
当然だ
勝つつもりでここまで来た
だが
口元には僅かな笑みが浮かんでいた
「強かったなぁ……」
しばらくして
「ハーゲン隊長、お疲れ様です」
「うん?」
声を掛けられたエルザが振り返る
「ラファエラ、お前Dブロックの決勝だったはずだよな?」
「負けました」
「……お前、負けた割にあっさりしたもんだな」
「悔しいのは悔しいんですけど、次やったら負けないっすよ」
「ほう」
「それに……」
「それに?」
ラファエラが先ほどまで戦っていた舞台を見る
「負け惜しみじゃなくて、ベルタ・ローゼンベルクって人、強いっすよ。変な格好していますけど」
「どのくらいだ?」
「うーん……」
少し考える
「副長クラスっすかね」
エルザの表情が僅かに変わった
ロイエンベルク侯爵家騎士団副長
ローラ・ブラウン
王国でも五十指に入ると言われる剣士
軽々しく比較に出す名前ではない
「そうか、見ておくんだったな」
「保護者なんだから見ていて下さいよ」
「保護者じゃないんだがな」
「似たようなもんじゃないっすか」
「帰ったらローラに報告しておく」
「えー!勘弁してくださいよ」
エルザが小さく笑う
ラファエラも笑った
「あ、そうだ」
「なんだ?」
「決勝前にグリゼリアに会ったんすけど、やっぱり変でしたよ」
エルザの笑みが消える
「変?」
「ここ最近、笑わなくなってましたっすけど、試合中に変なにやけ面したり」
「……そうか」
「まあ、それでも結局Bブロック勝ち上がっちゃったんすから、一皮むけたんすかね」
「グリゼリアは勝ち上がったのか」
「はい」
ラファエラは頷く
そして、少しだけ羨ましそうに笑った
「自分が言うことじゃないっすけど、優勝してくださいよ、隊長」
「ああ」
エルザはラファエラの肩を軽く叩いた
「そこで見ていろ」
「はい!」
やがて、全てのブロック戦が終了した
Aブロック
カナリア・フランベルジュ
Bブロック
グリゼリア・ベリ
Cブロック
エルザ・ハーゲン
Dブロック
ベルタ・ローゼンベルク
一万人近い参加者から始まった大会も
残るは四人
「それでは、準決勝の組み合わせ抽選を行います!」
会場中央に置かれた箱
四人の選手が順にくじを引いていく
カナリアが紙を開く
そこには
一
と書かれていた
「一番、カナリア・フランベルジュ!」
続いてグリゼリア
「二番、グリゼリア・ベリ!」
エルザが引く
紙を開いた
二
一瞬
その視線がグリゼリアへ向く
グリゼリアが笑っていた
口元だけを歪めるような
妙な笑みだった
「二番、エルザ・ハーゲン!」
会場が沸く
同じロイエンベルク侯爵家騎士団に所属する二人
部下と騎士団長
その対決が決まった
そして最後
ベルタが残された紙を開く
「一番、ベルタ・ローゼンベルク!」
再び歓声が上がる
準決勝第一試合
カナリア・フランベルジュ
対
ベルタ・ローゼンベルク
準決勝第二試合
グリゼリア・ベリ
対
エルザ・ハーゲン
カナリアはベルタを見る
赤い髪
細い眼鏡
そして腰には一本のサーベル
知らない女だ
だが、Dブロックを勝ち抜いた
弱いはずがない
ベルタもまた、黒い仮面の女を見ていた
「……」
僅かに目を細める
カナリアは腰のサーベルへ手を添えた
あと二つ
二人倒せば優勝だ
そのために、まずは目の前の一人
「準決勝第一試合の選手は、準備をお願いします!」
呼び出しの声が響く
カナリア・フランベルジュ
ベルタ・ローゼンベルク
二人はそれぞれ
同じようにサーベルを腰に下げたまま
準決勝の舞台へと歩き始めた。




