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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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トーナメント本戦③

カナリア・フランベルジュがAブロックを勝ち進んでいた頃――


少し時を遡る


Cブロック一回戦


エルザ・ハーゲンとリン・チェイの試合が終わった直後のことだった


「お疲れ様っす、今の棍の女、強かったっすね」


「うん?」


エルザが声の方へ振り返る


そこには、ロイエンベルク侯爵家騎士団の制服を着た一人の女が立っていた


ラファエラ・タスカ少尉


エルザの部下であり、彼女もまた今回のトーナメントに出場している一人だった


「ラファエラ、こんな所で油を売っていていいのか?」


「まあ、見てて下さいっす、今回結構いい所まで行ける気がするっすよ、もしかしたら隊長と決勝かも」


「あまり大きなことを言わない方がいい、あとで恥をかくぞ」


「えー!部下のやる気削ぐのはよくないですよ」


ラファエラが頬を膨らませる


エルザは小さく笑った


「なら、口ではなく剣で示せ」


「もちろんっすよ」


ラファエラはそう言って片手を上げると、自分の試合が行われるDブロックの方へと歩いていった


エルザはその後ろ姿を見送り、僅かに息を吐く


王国十傑の一人


ロイエンベルク侯爵家騎士団長


そんな肩書きを持つエルザではあるが、部下にとっては普段から剣を交える上官でもある


そして今回の大会には、ラファエラ以外にも、もう一人ロイエンベルク騎士団から参加している者がいた


グリゼリア・ベリ少尉


彼女はBブロックに入っている


エルザは一度だけBブロックの方へ視線を向けた


だが、すぐに自分の次の試合へと意識を戻した



――そして、現在



「勝者!カナリア・フランベルジュ!」


審判の声が響く


歓声の中、カナリアは倒れた対戦相手に一礼すると、静かに舞台を降りた


これで二勝


あと一勝すればAブロック代表として準決勝へ進む


予選では奇異の目で見られていた黒い仮面の女も、今ではすっかり観客に名前を覚えられていた


「やっぱり強いじゃないか、カナリア!」


「私は知ってたよ、予選から見てたからね」


「嘘つけ、お前あの時、絶対すぐ負けるって言ってただろ」


「それは別の奴だよ」


「カナリアの試合だったよ」


「……細かいこと気にするなよ」


周囲から笑い声が上がる


そんな観客たちを気にする様子もなく、カナリアは控えの場所へ戻った


「アデル……」


待っていたリュシエンヌが、小声で呼ぶ


「なんだ?」


「もうちょっとこう、苦戦しているように見せるとか出来ないんですか?」


「なぜだ?」


「なぜって……」


リュシエンヌが額を押さえる


「目立たないようにって言いましたよね?」


「怪我はさせていない」


「そういう意味じゃなーい!」


カナリアは首を傾げた


その様子を少し離れた場所から見ていたユーリイが、堪えきれずに笑う


「少佐には無理だろ」


「何がだ?」


「いや、何でもないです」


「?」


ユーリイはそれ以上言わなかった



試合は各ブロックで進んでいった


Aブロックではカナリア・フランベルジュ


Cブロックではエルザ・ハーゲン


二人は順当に勝ち星を重ねる


そしてBブロックでも、一人の女が勝ち上がっていた



キン!



剣が宙を舞った


「そこまで!」


審判が二人の間に入る


「勝者!グリゼリア・ベリ!」


歓声が上がる


グリゼリアは荒い息を吐きながら、飛ばされた相手の剣へ視線を向けた


「はぁ……はぁ……」


そして、笑った


「ふ……」


口元が吊り上がる


「ふふ……」


審判が僅かに眉をひそめる


だが、グリゼリアはすぐに表情を戻すと、対戦相手へ一礼した


これで二勝


彼女もまた、Bブロック決勝へと駒を進めた



一方、Dブロック


「やぁっ!」


ラファエラの剣が相手の剣を弾く


体勢を崩した相手の懐へ、一気に踏み込んだ


切っ先が胸元で止まる


「そこまで!」


「勝者!ラファエラ・タスカ!」


「よっしゃ!」


ラファエラは小さく拳を握った


先ほどエルザに言った言葉は、決して根拠のない大口ではない


彼女もまた、ロイエンベルク侯爵家騎士団の一員


決して名の知られた剣士ではないが、その実力は確かなものだった


そして二勝


あと一つ勝てば準決勝


「隊長、見てるっすかね」


そう呟きながら、ラファエラは次の対戦表へと目を向けた


そこに書かれていた名前を読む


「ベルタ・ローゼンベルク……」


聞いたことのない名前だった


だが、ここまで勝ち残った以上、弱いはずがない


「まあ、誰でも同じっすね」


ラファエラは笑った


勝てばいい


ただ、それだけだ



そして、Aブロック決勝


黒い仮面を着けたカナリアが舞台へ上がる


三度目ともなれば、もう笑う者はいなかった


「カナリアー!」


「勝てよー!」


予選では物珍しさから向けられていた声が、今では純粋な声援に変わっている


カナリアはそれに応えることなく、腰のサーベルを抜いた


対戦相手も剣を構える


審判が二人を見る


「始め!」



数度、剣が交わる



相手も強い


ここまで二人を倒してきた剣士だ


だが――



キン!



カナリアのサーベルが相手の剣を外へ流す


そのまま身体を入れ替え、切っ先を喉元へ突きつけた


「……参った」


「そこまで!」


審判が腕を上げる


「Aブロック勝者!カナリア・フランベルジュ!」


大歓声が上がった


カナリアは剣を収める


これで準決勝進出


だが、まだ相手は決まっていない


B、C、D


残る三つのブロックの勝者が揃った後、改めて抽選が行われる


カナリアは舞台を降りると、他の試合場へ目を向けた


エルザ・ハーゲン


そして、まだ見ぬ二人


誰が来ても同じだ


勝つだけだ


その頃


Dブロックでは、ラファエラ・タスカが決勝の舞台へ向かっていた


その反対側から、一人の女が歩いてくる


赤い髪


細い眼鏡


腰にはサーベル


「ベルタ・ローゼンベルク選手、入場!」


歓声を受けながら、その女は静かに舞台へ上がった


ラファエラは剣を抜く


「変な格好っすね」


小さく呟いて、笑った


「まあ、人のこと言えない奴もいるっすけど」


二人が向かい合う


審判が手を上げた


「始め!」


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