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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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トーナメント本戦①

本予選が終了し、本戦に出場する三十二人の戦士が決まった。


大小、広狭さまざまな得物が並んでいるが、そのほとんどが剣だった。


長剣、細剣、曲剣、片手剣。


僅かに片手斧、槌、棍、槍を使う戦士が一人ずついるくらいだ。


本戦は四つのブロックに分かれる。


くじ引きによって各ブロックに八名ずつ振り分けられ、それぞれのブロックを勝ち上がった四名が再びくじを引く。


そこで準決勝の組み合わせが決まり、その勝者同士によって決勝が行われる。


つまり、まずは三人。


三人を倒さなければ、その先へは進めない。


「Aブロック、カナリア・フランベルジュ!」


係員が名を読み上げる。


アデルハイド――今はカナリアが引いた札を掲げた。


Aブロック。


悪くない。


続いて別の選手が札を引く。


「Cブロック、エルザ・ハーゲン!」


会場の一角から歓声が上がった。


王国十傑。


ロイエンベルク侯爵家騎士団長。


その名を知る者は多い。


カナリアはCブロックへ記されたエルザの名を見つめた。


これで、互いにブロックを勝ち上がらない限り戦うことはない。


「少し残念か……」


呟き、


「いや、目的は別だったな」


小さく首を振った。


今回の目的はエルザと戦うことではない。


大会の裏で何が行われているのか。


その正体を掴むことだ。


それでも、


戦士として思うところがないわけではなかった。


次々と札が引かれていく。


そのたびに歓声や溜息が上がった。


「あー!終わったよ!」


一際大きな声が響いた。


「なんでよりによって初戦で王国十傑が相手なんだよ!」


一人の女が頭を抱えていた。


右手には、自分の背丈ほどもある一本の棍。


本戦に残った三十二人の中で、唯一の棍使いだった。


周囲から同情するような声が飛ぶ。


「運が悪かったな」


「せっかく本戦まで来たのに」


「うるさいよ!分かってるよ!」


女はさらに頭を抱えた。


「初戦くらい気持ちよく勝たせてくれたっていいじゃないか!」


その姿に周囲から笑いまで起きる。


その女の名は、


リン・チェイ。


Cブロック。


そして初戦の対戦相手は、


エルザ・ハーゲン。


カナリアは一瞥しただけで、すぐに自分の組み合わせへ目を戻した。


自分の名の隣に、新たな名前が記される。


バーバラ・キンダー。


得物は標準的なブロードソード。


まずは、この相手。


カナリアは腰に下げたサーベルの柄を握った。


周囲の喧騒が遠ざかっていく。


これから戦う相手。


そのことだけに意識を向ける。


まずは三人。


それだけだ。


—


本戦開始を告げる花火が上がった。


大歓声が闘技場を包む。


最初の試合から会場は大いに沸いた。


本予選を突破した三十二人。


当然ながら、弱い者など一人もいない。


それでも実力差はある。


危なげなく勝ち上がる者。


予想を覆す者。


長い打ち合いの末、辛うじて次へ進む者。


そして、


「次!Cブロック第一試合!」


歓声が一段大きくなった。


「エルザ・ハーゲン!」


東側の入場口から一人の女が姿を現す。


その名だけで観客席が沸いた。


「エルザ!」


「ハーゲン大佐!」


「王国十傑だ!」


エルザは歓声に応えるでもなく、静かに試合場へ進む。


手には一振りの剣。


その反対側から、


「リン・チェイ!」


先ほど頭を抱えていた女が出てきた。


「あーあ……」


棍を肩に担ぎながら、露骨に肩を落としている。


「まったく、ついてないよ」


観客席から笑いが起きた。


エルザは何も言わない。


二人が中央へ進む。


リンがエルザを見る。


「ハーゲン大佐」


「なんだ?」


「少しくらい手加減してくれないかい?」


「できない」


即答だった。


「だよねぇ……」


リンが大きく溜息を吐く。


そして、


棍を構えた。


エルザも剣を構える。


審判が二人を確認する。


「両者――」


一瞬、


リンの目が細くなった。


「始め!」


次の瞬間だった。


ドン!


リンが地面を蹴った。


「なっ!」


観客席から声が上がる。


先ほどまでの姿はどこにもない。


一気に間合いを詰めたリンの棍が、エルザの側頭部へ襲いかかった。


ガァン!


エルザの剣がそれを受ける。


鈍い衝撃音。


エルザの身体が僅かに流れた。


「おおおおお!」


観客席が沸く。


リンは止まらない。


弾かれた棍をそのまま回転させる。


反対側から横薙ぎ。


エルザが下がる。


棍の先端が鼻先を通り過ぎた。


さらに一歩。


突き。


払う。


返す。


長い棍の両端を自在に使い、リンが攻め続ける。


先ほどまで頭を抱えていた女と同一人物とは思えない。


エルザが剣で棍を逸らす。


一歩踏み込んだ。


だが、


リンは棍の中央を滑らせるように持ち替える。


石突が跳ね上がった。


エルザが首を傾ける。


その横を棍が抜けた。


二人が離れる。


「……」


エルザが初めて、目の前の女をじっと見た。


リンがニヤリと笑う。


「ちっ、取ったと思ったんだけどねぇ」


「先ほどのあれは演技か」


「半分は本気さ」


棍をくるりと回す。


「しょっぱなであんたと当たるなんて、運がないって思ったのは本当だよ」


リンの腰が落ちた。


「でも、それは負けるからじゃない」


棍の先がエルザへ向けられる。


「食っちまうなら、決勝がよかったって思ったからさ!」


歓声が爆発した。


エルザは、


僅かに口元を緩めた。


「なるほど」


剣を構え直す。


「では、私も応えよう」


「最初からそうしな!」


再びリンが飛び込んだ。


棍が唸る。


剣が受ける。


一撃。


二撃。


三撃。


リンは強かった。


本戦へ残ったことが幸運でもなければ、王国十傑を食うという言葉も虚勢ではない。


間合いの外から打ち、


踏み込まれれば持ち手を変える。


突き、払い、薙ぎ、石突まで使う。


剣とはまるで違う攻撃が、次々とエルザを襲った。


だが、


次第に変わっていった。


一撃。


エルザが受ける。


二撃。


流す。


三撃。


踏み込む。


「ちっ!」


リンが棍を引いた。


その先に、


既にエルザがいる。


リンの顔から笑みが消えた。


棍を横にして剣を受ける。


ガン!


今度はリンが下がった。


「重いねぇ!」


言いながら、再び棍を振るう。


だが、


当たらない。


エルザは既にリンの間合いを見切り始めていた。


棍の長さ。


持ち替え。


攻撃の起点。


変則的な攻撃を一つずつ潰していく。


リンが大きく薙いだ。


エルザが潜る。


「!」


懐へ入った。


リンが棍を引こうとする。


その前に、


剣先が胸元で止まった。


「そこまで!」


審判の声が響いた。


一瞬の静寂。


そして、


大歓声。


リンは自分の胸元に突きつけられた剣を見る。


「あー!」


天を仰いだ。


「負けちまった!」


エルザが剣を引く。


リンも棍を下ろした。


「なかなか筋がいい」


「慰めかい?」


「いや」


エルザは淡々と答えた。


「うちの副長クラスか」


リンの眉が上がった。


それがどれほどの評価なのか、


分からない女ではない。


それでも、


「上から目線かい?」


棍を肩へ担ぐ。


「次はそーはならねー」


エルザは、


僅かに微笑んだ。


そして二人は、それぞれの出口へ歩いていった。


王国十傑。


エルザ・ハーゲン。


Cブロック、一回戦突破。


その名が勝者の欄へ記された。


そして、


次の試合の名が呼ばれる。


「Aブロック第一試合!」


黒い帽子を深く被った女が立ち上がった。


「カナリア・フランベルジュ!」


その手が、


サーベルの柄に触れた。


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