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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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辺境伯邸

退席を促され、十一人は揃って頭を下げた。


謁見の間を出ようとした、その時だった。


「シーゲル、ザッカー、待ってくれ」


「「はい?」」


二人が振り返る。


声を掛けたのは、先ほど女王の左手に立っていた女性だった。


歳は、自分たちより少し上だろうか。


堂々とした立ち姿。


軍人にも見える。


だが、身に纏っているものは明らかに高貴な者のそれだった。


「王太子のアトラス・アデスだ」


「「!!!!」」


ユーリイとミークニーだけではない。


まだ退室していなかった仲間たちまで、その場で固まった。


「「王太子!!!!」」


アトラスは僅かに笑った。


「妹を助けてくれてありがとう。感謝している」


「いえ、自分たちはただ、自分の仕事をしただけです」


「謙遜するな。君たちがいなかったら、妹は間違いなく森の一部となっていただろう」


「恐縮です」


ユーリイは深く頭を下げる。


「でだ」


アトラスの声が少し変わった。


「それとは別に、二人と大切な話がある。少し時間をもらえるか」


ユーリイとミークニーは顔を見合わせた。


「「分かりました」」


二人が通されたのは、先ほどの謁見の間とは比べるべくもない、小さな部屋だった。


とはいえ、置かれている家具や調度品はどれも最上のもの。


二人にも、この部屋が高貴な者のために用意された場所だということくらいは分かる。


先ほどまでとは違い、近くに仲間はいない。


ユーリイとミークニーは所在なさげに立っていた。


やがて扉が開いた。


最初に入ってきたのは、先ほど二人を呼び止めた王太子アトラスだった。


「やあ、待たせたね」


その後ろから数人が入ってくる。


「こちらは先ほど会ったから分かるな?」


二人の身体が固まった。


「「陛下! 宰相閣下! メローペ殿下!」」


女王イオネ。


宰相クラリス。


そして、メローペ。


「はは、固くならないでいいわよ」


イオネが笑う。


「ここじゃ、一人のイオネ・アデスとして扱ってちょうだい」


「「むむむ……無理です!!!」」


「陛下、そんなの無理ですよ」


ヴァイスフェルト宰相が呆れたように言う。


「とは言え、陛下がおっしゃる通り、そんなに固くならないでいいですよ」


「「…………」」


二人の視線が、ゆっくりとメローペへ向いた。


じーっ。


「…………」


メローペは目を瞑った。


助けてくれないようだ。


再び口を開いたのはアトラスだった。


「繰り返しになるが、メローペを助けてくれたこと、感謝している」


二人が頭を下げる。


「それとは別に、君たちに聞きたいことがある」


アトラスは二人を見た。


「おおよその話はメローペから聞いているが、今回、不帰の樹海内であったことの詳細な話を聞かせてもらいたい」


そして、イオネとクラリスへ視線を向ける。


「ここにいる私や母上、宰相は、全て知っていると思ってくれ」


ユーリイとミークニーは顔を見合わせた。






コンコン


「入りなさい」


扉が開く。


部屋の中には、一人の女性が立っていた。


身長は中背。


僅かに幼さが残った顔立ちだが、歳は二十代後半。


大粒の瞳には、修羅場をくぐった獣のような鋭さがある。


クレールは部屋へ入ると姿勢を正した。


「クレール・ドロワ、ただいま戻りました」


「こっちへ」


女性が短く言う。


クレールは、その女性へ歩みを進めた。


「よく戻ったわ」


自分より頭一つ背の高い妹を、女性は抱きしめた。


「本当によく戻った」


「はい」


クレールも、その身体に腕を回した。


しばらくして身体を離す。


女性の視線が、クレールの後ろへ向いた。


そこには、所在なさげに立つ小柄な女性。


「ところで、あのおチビちゃんは?」


「ああ、私の部下のセリナ・ロスリー軍曹です」


突然話を振られたセリナの背筋が伸びる。


「セッ、セリナ・ロスリーです。ドロワしょうい……いえ、少佐の部下であります。ドロワ辺境伯様にお会いできて光栄であります」


「あなたも、こっちにいらっしゃい」


「は、はい」


おずおずと歩を進める。


女性は、クレールにしたのと同じようにセリナを抱きしめた。


「わっ、わっ」


「あなたも良く生きていてくれたわ」


腕に力が入る。


「そして、妹を連れて帰って来てくれてありがとう」


「は、はい……」


セリナはどうしていいか分からず、両手を宙に浮かせていた。


やがて解放され、ほっと息を吐く。


女性――


ジャンヌ・ドロワ辺境伯は、改めて二人を眺めた。


「少佐……もう内示が出たのね。おチビちゃん、あなたもね」


「相変わらず姉上は耳が早いですね」


「ふふん、当たり前じゃない」


ジャンヌは少し得意そうに笑った。


「あなたたちと一緒に帰ってきた男たちとは、別個で話をされたようね」


クレールが僅かに眉を動かす。


「今日、彼らは内々に女王と会っているわ」


そして、


ジャンヌは二人を見た。


「あなたたちは、英雄として大々的に表彰される」


一拍。


「王女生還の立役者、英雄としてね」


ここで過去編は終わりです。次から元の時間軸に戻ります。

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