褒美と願い
頭を上げた。
男たちの前には、玉座に座る一人の女性。
その右手には、女王と同じくらいの年頃に見える女性。
反対側には、自分たちより少し年上に見える女性が立っていた。
そして、玉座を中心に右側の壁際にはメローペ殿下と五人の近衛。
左側には、数名の高位貴族らしき者たちが並んでいる。
先ほどの声は、玉座の右手に立つ女性から発せられたものだった。
「私は、アバディーン・アンガス王国宰相、クラリス・ヴァイスフェルト侯爵である」
男たちの間に緊張が走る。
「諸君らは、此度の我がアバディーン・アンガス王国第四王女、メローペ・アデス殿下の帰還に多大なる貢献をした」
誰一人、動かない。
「今回の作戦において、我が国は多大な犠牲を払った。しかし、僅か八名となってしまった王女殿下御一行から、それ以上の犠牲者を出すことなく王都まで帰還を果たせたことは僥倖であった」
クラリスは一度言葉を切った。
「この功績に対し、我が国女王イオネ・アデス陛下より、諸君らへ直々に言葉を掛けたいとの御意向があった。よって、この謁見の場が設けられた」
そして、玉座へ僅かに身体を向ける。
「これより、陛下よりお言葉を賜る」
玉座の女性が口を開いた。
「皆の者、楽にせよ」
そう言われたものの、姿勢を崩す者はいなかった。
崩していいと言われても、どう崩せばいいのか分からない。
イオネはそんな男たちを見渡した。
「皆の者、此度は我が娘メローペを、よくぞ無事に帰還させてくれた」
一拍。
「女王としてではなく、一人の母として感謝する」
その言葉に、男たちは僅かに頭を下げた。
イオネがクラリスへ目配せする。
クラリスは小さく頷き、再び口を開いた。
「よって陛下の名の下に、諸君らの貢献を称え、これに対しいくつかの褒賞を与えることとした」
男たちの表情が僅かに動く。
「一つ、現在の陸軍階級より二階級特進」
「一つ、諸君ら全員に騎士爵を授ける」
そして、
「最後に、一人につき一つ、希望する願いを叶える」
男たちが顔を見合わせた。
「常識の範囲内であれば、金銭、宝物、身分、土地でも構わない。王国がその後ろ盾となることを約束する」
顔を見合わせたまま、誰も口を開かない。
「詳細については後ほど書記官より伝えるが、この場で何か質問はあるか」
沈黙。
ユーリイは少し迷ってから、口を開いた。
「一つ、よろしいでしょうか?」
クラリスがユーリイを見る。
「申してみよ」
「自分……いえ、私たちに対する褒賞については分かりました」
慣れない言葉遣いに、僅かに詰まる。
「死亡した仲間たちについても、同様に称えられるのでしょうか?」
「勿論だ」
クラリスは即答した。
「君たちの所属していた第893小隊の者たちのみならず、今回の救援作戦において甚大な犠牲者を出した第二中隊、その全犠牲者に対しても二階級特進を行う。また、その家族には年金が支給される」
「分かりました」
ユーリイは頭を下げた。
「ありがとうございます」
「他に何かあるか?」
ユーリイは少しだけ考えた。
「では、もう一つだけ」
「よい」
「先ほどの願いというのは、本当に常識の範囲内であれば何でもよろしいのでしょうか?」
クラリスが答えようとした時だった。
「よい」
玉座から声が飛んだ。
イオネだった。
「国を寄越せだとか、国家予算を丸ごと欲しいというのは聞けんがな」
僅かに口元を緩める。
そして、
ちらりと右の壁際へ視線を向けた。
「あと、メローペの婿になりたいというのも却下だ。わはは」
「陛下、面白くないですよ」
間髪入れずにメローペが返した。
イオネは楽しそうに笑っている。
だが、
それとは対照的に、場は静まり返っていた。
誰も笑わない。
ユーリイたちも笑えない。
その場に列席していた貴族や大臣たちの視線が、一斉に十一人の男たちへ向けられる。
何でも。
常識の範囲内なら、何でもよい。
金。
宝石。
土地。
身分。
望めば、これまでの人生では決して手に入らなかったものすら得られる。
しかも、
十一人全員が男だった。
何を望む。
何を言い出す。
無礼な願いを口にするのではないか。
その場にいる者たちは、固唾を呑んで男たちの言葉を待った。
ユーリイは仲間を見る。
アン。
モーリス。
タッカー。
ミューン。
ミークニー。
そして、
残った仲間たち。
視線が交わる。
誰も何も言わない。
だが、
それで十分だった。
ユーリイは前を向く。
玉座に座る女王を見た。
「では」
一度、息を吸う。
「無礼を承知で申し上げます」
イオネがユーリイを見る。
「申せ」
ユーリイは頭を下げた。
「我々の師である、ネメシス・ペルサキス大佐の名誉の回復を願います」




