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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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謁見

三日ぶりに仲間に会った


皆、半ば拘束された状態に置かれていたが


疲れた顔をした者はいなかった


どうやら


皆、自分と同じように遇されていたらしい


樹海を出たばかりの頃と比べれば


顔色もいい


肌にも艶が戻っている


清潔な服を着て


髪も整えられていた


少なくとも


死の森を彷徨っていた人間には見えない


ただ


全員が居心地悪そうにしていた


理由は分かっている


服だ


着慣れない正装


身体に合っていないわけではない


むしろ驚くほどぴったりだった


それでも


どうにも落ち着かない


そして


場所


王城


これから


女王陛下に会う


なんだか


考えれば考えるほど


気分が悪くなってきた


戦場で敵と相対する方が


よっぽど楽だ


周囲でも


皆がぼそぼそと話している


「おい! 俺たち、こんなところにいていいのか?」


アン・ピノーが小声で言った


「帰っちゃ駄目なのか?」


モーリス・マスが続く


「駄目に決まってるだろうが」


タッカーが呆れた顔をする


「俺、緊張で吐きそう」


ミューン・ジローが腹を押さえた


「俺、ションベン漏らしそう」


「お前は先に行ってこい」


「いや、今行ってる間に呼ばれたらどうすんだよ」


「漏らすよりいいだろ」


「それもそうか……」


モーリスが本気で立ち上がろうとする


「待て待て待て」


アンが腕を掴んだ


「どこ行くんだよ」


「ションベン」


「今行くなよ!」


「お前ら静かにしろ」


タッカーが声を潜める


全員


緊張している


当然だ


俺たちは兵士だ


貴族でもなければ


宮廷人でもない


ここにいること自体が


何かの間違いのような気がする


「おい、ミークニー」


アンが助けを求めるように振り返った


「こういう時、どうしたらいいんだよ」


ミークニーが眉を寄せる


「私だって、陛下にお会いしたことなんてありませんよ」


「でも、お前なら何か知ってるだろ」


「言われた通り振る舞えばいいんです」


「その言われた通りが分からねえんだよ」


「ですから、これから説明されるでしょう」


「本当か?」


「知りませんよ」


アンが黙った


俺も


最低限の作法くらいなら知っている


だが


女王陛下への謁見となれば話は別だ


そんなもの


経験したことがあるはずもない


しばらくして


扉が開いた


複数の役人が入ってくる


それまでぼそぼそと話していた声が


一斉に消えた


その中で


一番偉そうな女が前へ出る


年齢は四十ほどだろうか


隙のない服装


背筋を真っ直ぐに伸ばし


こちらを見渡す


「宰相第二補佐官のハンナ・フィッシャー子爵です」


子爵


その一言で


何人かの背筋がさらに伸びた


本物の貴族相手に


余計な口を挟む者などいない


「本日はイオネ女王陛下たってのご希望により、メローペ殿下帰還の立役者である皆様にお越し願いました」


誰も喋らない


さっきまでションベンがどうこう言っていたモーリスまで


口を固く閉じている


「これより、女王陛下に謁見される際の注意事項を説明します」


ハンナ子爵が一歩前へ出た


入室後の位置


礼の仕方


跪く場所


頭を上げる時


陛下への呼び掛け


問われた際の答え方


許可なく発言してはならないこと


退出する際の作法


一つずつ


丁寧に説明されていく


難しいものではない


言われた通りにすればいい


ミークニーの言った通りだった


それでも


説明が進むほど


妙に緊張が増していく


「以上です」


ハンナ子爵が俺たちを見る


「分からないことがあれば、今のうちにお尋ねください」


誰も手を挙げない


分からないことがないのではない


質問することすら怖いのだろう


「では、こちらの指示に従ってください」


それから


俺たちは謁見の間へと通された


広い


まず


そう思った


天井が高い


声を出せば


どこまでも響きそうだった


壁


柱


床


どれも


自分たちが普段目にする建物とは違う


ここが


この国の中心


女王陛下が


国を治める場所


指定された場所へ進む


教えられた通り


跪く


頭を垂れる


床だけが見える


誰も喋らない


待つ


どれほど経ったのか


実際には


それほど長くなかったのかもしれない


だが


随分と長く感じた


やがて


「女王陛下、御入場です!」


声が響いた


身体が固くなる


頭は上げない


事前に言われた通り


そのまま待つ


だから


陛下が入ってくる姿は見えなかった


聞こえるのは


衣擦れ


一人ではない


複数の足音


それが


ゆっくりと近づいてくる


俺たちの前にある玉座


そこへ


誰かが座った


見えない


だが


分かる


空気が変わった


重い


戦場とは違う


殺気でもない


敵意でもない


それなのに


身体が勝手に強張る


静寂


誰も動かない


そのまま


少しの時間が過ぎた


そして


頭上から


声が降ってきた


「皆の者」


女の声


穏やかだった


だが


その一言だけで


この場にいる全員が


その声を聞いた


「面を上げなさい」


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