王城の住民たち⑤
蹄の音が
王都へ向かう街道に響いていた
二騎
少し離れて
また二騎
さらに
二騎
六騎の馬が
王都へ向かって走っていた
王城
いつもと変わらない
一日だった
廊下を
侍女が歩いている
厨房では
昼食の片付けが続いている
衛兵は
いつもの場所に立ち
官吏達は
机に向かっていた
第四王女
メローペ・アデス
その名を
口にする者は
少なくなっていた
忘れたわけではない
忘れられるはずがない
ただ
誰もが
口にしなくなっていた
不帰の樹海
そこへ消えた者が
戻ってくることはない
誰もが知っていた
だから
待つことしか出来なかった
王城の門に
一騎の馬が
駆け込んできた
「急報!」
衛兵が振り向く
馬が止まる
騎手が
転がるように降りた
「森林第2駐屯部隊より急報!」
荒い息のまま
叫ぶ
「第四王女殿下!」
衛兵達の動きが止まった
「第四王女メローペ殿下!」
一度
大きく息を吸う
「御生還!」
誰も
動かなかった
「……え?」
一人の衛兵が
声を漏らした
「今……何て?」
「メローペ殿下が生還された!」
「…………」
「不帰の樹海より、生還された!」
衛兵が
目を見開く
「本当に?」
「間違いない!森林第2駐屯部隊よりの正式な報告だ!」
その言葉が
王城の中へ
走り出した
「急報!」
廊下を
兵士が走る
「第四王女殿下、御生還!」
書類を抱えて歩いていた官吏が
足を止めた
「……第四王女?」
「メローペ殿下が?」
「メローペ殿下が戻られたって!」
侍女が
別の侍女を捕まえる
「え?」
「生きておられたの!」
「嘘」
「本当よ!今、急報が!」
「本当に?」
「本当!」
侍女の手から
抱えていた布が落ちた
「あ……」
拾おうとして
やめた
「生きて……」
「うん」
「生きておられたのね……」
厨房
「ちょっと!」
「何よ」
「殿下が!」
「どの殿下?」
「メローペ殿下!」
「…………」
包丁を握っていた料理人が
振り返る
「今、何て?」
「生還されたって!」
「誰が?」
「だから、メローペ殿下!」
「嘘でしょ」
「本当だって!」
「だって……」
「本当なの!」
料理人が
包丁を置いた
「……帰ってきたの?」
「帰ってきた!」
「本当に?」
「本当!」
その声を聞いていた
別の料理人が
「やった!」
突然
声を上げた
「やった!」
誰かが笑った
誰かが泣いた
「帰ってきた!」
「殿下が帰ってきた!」
「良かった……」
「本当に良かった……」
兵舎にも
知らせは届いた
「第四王女殿下が生還された!」
「は?」
靴を磨いていた兵士が
顔を上げる
「今、何て言った?」
「殿下が戻られた!」
「どこから?」
「樹海!」
「……樹海?」
「不帰の樹海から!」
「嘘つけ!」
「本当だよ!」
立ち上がる
「本当に?」
「ああ!」
「生きてる?」
「生きてる!」
「殿下が?」
「そうだ!」
兵士が
隣の女の肩を叩いた
「おい!」
「痛い!」
「帰ってきたぞ!」
「聞こえてるよ!」
笑う
理由もなく
笑った
「帰ってきた!」
知らせは
階段を上がり
廊下を走り
扉を越え
次々と
王城の中へ広がっていった
「メローペが?」
王女の一人が
立ち上がった
「はい!」
報告に来た侍女が
何度も頷く
「第四王女殿下、御生還とのことでございます!」
「間違いないの?」
「森林第2駐屯部隊より正式な報告が!」
「……そう」
椅子へ
座り直そうとして
座れなかった
「そう……」
もう一度
同じ言葉を口にした
「生きてたのね」
別の場所でも
「殿下!」
扉が開く
「何事です」
「メローペ殿下が!」
「メローペが?」
「生還されました!」
立ち上がる
「本当に?」
「はい!」
「……本当に?」
「はい!」
誰もが
同じことを聞いた
本当なのか
間違いではないのか
本当に
生きているのか
そして
同じ答えを聞いた
生きている
帰ってきた
王城のあちらこちらで
扉が開いた
人が廊下へ出てきた
「聞いた?」
「聞いた!」
「本当なの?」
「本当だって!」
「良かった……」
「良かったね……」
ほんの少し前まで
いつもと変わらない王城だった
人が歩き
人が働き
人が話す
それだけだった
それが
一つの知らせで
変わった
第四王女
メローペ・アデス
生還
その知らせが
王城を駆け巡った
まるで
真っ暗だった大きな屋敷に
誰かが
灯りを入れて回るように
一つ
また一つ
窓に
光が灯っていくように
王城が
明るくなっていった




