エンカウンター
森を抜けた
その先、およそ一キロ
木々のなくなった平地に
複数のテントが見えた
その横には
一本の青い旗が立っている
王国軍を示す旗だった
「王国軍だ!」
誰かが声を上げた
一行の間に安堵が広がった
ようやく帰ってきた
そう思った
一行はテントを目指して歩き始めた
しばらくすると
向こうもこちらに気付いたらしい
テントから
次々と兵士が出てくる
その手にはマスケット銃
こちらを警戒するように
銃を手にしているが
それを不審に思う者はいなかった
不帰の樹海から突然
二十人を超える武装した集団が現れたのだ
警戒されて当然だった
何より
彼女達が身につけているのは
見慣れた王国軍正規兵の軍服だった
「本当に、森から兵士が出てきましたね」
副官が呟いた
隣に立つ隊長が
一行を眺める
「ああ」
その視線が
一行の中央で止まった
「中央にいる大佐が王女だ」
僅かに口元を歪める
「周りの雑魚諸共、森の肥やしになってもらえ」
両者の距離が
さらに縮まる
先頭近くを歩いていた
ミトゥ・ハーグボウが大きく手を振った
「おーい!」
笑顔だった
「あんたら王国軍だろ!」
返事はなかった
代わりに
「構え!」
鋭い号令が響いた
並んでいた兵士達が
一斉にマスケット銃を持ち上げる
銃口が
こちらを向いた
「え?」
ミトゥの足が止まった
その瞬間
メローペの周囲にいた近衛達が動いた
考えるよりも早く
三人が同時に
メローペへ飛び掛かる
「撃て!」
轟音が響いた
およそ二十発
ほとんど同時に放たれた銃声が
森の出口に響き渡った
メローペへ覆い被さった
近衛達の身体が跳ねる
少し離れた場所では
クレールの小隊に残っていた
二人が倒れた
何が起こったのか
理解する暇さえなかった
ミトゥも
腹部を押さえた
指の間から
血が溢れてくる
「何で……?」
そのまま
膝から崩れ落ちた
だが
次の瞬間には
残った者達が動いていた
ユーリイ・シーゲル
タッカー・ナークニー
アン・ピノー
イツォー・フーク
ヨシーカ・カーム・タータ
ヤース・カーム・タータ
モーリス・マス
リナことセリナ・ロスリー
クレール・ドロワ
アデルハイト・クロイツベルク
リュシエンヌ・フォルティエ
誰かの命令を待つ者はいなかった
一斉射撃を終えた銃口が下がる
その瞬間
十一人が低く姿勢を落とし
一気に地面を蹴った
「来るぞ!」
刺客の一人が叫ぶ
マスケット銃を捨てる者
背へ回す者
剣を抜く者
ナイフを構える者
刺客達も
王国軍の正規兵だった
反応は早い
だが
次弾を装填する時間など
与えられなかった
ユーリイが
最初の一人へ飛び込む
相手が剣を抜き切るより早く
懐へ入った
身体ごとぶつかり
そのまま地面へ叩き倒す
その横を
タッカーが駆け抜けた
振り下ろされた剣をかわし
相手の腕を掴む
勢いを殺さないまま引き倒し
奪った剣を構えた
アンとイツォー
ヨシーカとヤース
モーリスも
それぞれ別の相手へ向かう
リナ達も同じだった
誰も立ち止まらない
誰も
次の命令を待たない
刺客達は弱くない
王国軍の正規兵として
訓練を受けた兵士達だった
それでも
森から帰ってきた者達は
彼女達が想像していた兵士ではなかった
銃声が止んでから
それほど長い時間は
必要なかった
戦闘が終わると
ユーリイはすぐに
ミトゥのもとへ駆け寄った
既にミークニーが
その傍らに膝をついている
「ミトゥ!」
「……おう」
返事はあった
だが
呼吸は浅く速い
「はぁ……はぁ……」
ミークニーは
脇腹から腹部にかけての傷を強く押さえていた
その手は
既に血で濡れている
「しくったわ……」
ミトゥが
僅かに笑った
「すぐ回復するから……ちょっと待ってろよ」
「ミトゥ、喋るな」
「はぁ……はぁ……」
何度か
浅い呼吸を繰り返す
「なあ……」
ミトゥが
ユーリイを見た
「俺たち……不能者じゃなくなったんだよな」
「ああ」
ユーリイは答え
すぐにミークニーを見る
「ミークニー……何とかしてくれよ」
ミークニーは
傷口を押さえたまま
ゆっくりと首を振った
「……おい」
「何とか……」
ユーリイの言葉が止まった
「ジゼル!」
少し離れた場所から
声が響いた
「ジゼル!ジゼル!」
別の場所からも
「ザッカー軍曹!こっちへ来てー!」
悲鳴にも似た声が飛ぶ
ミークニーは
一瞬だけそちらを見る
だが
ミトゥの傷口から
手を離さなかった
「はぁ……はぁ……」
ミトゥが
目を細める
「真っ暗だ……」
「ミトゥ?」
「もう……夜かよ」
まだ日は高かった
ユーリイは何も言わず
ミトゥの手を握った
「母ちゃんの……」
声が小さくなる
「シチュー……食いたかったな……」
「ミトゥ?」
返事はなかった
「おい、ミトゥ」
ミークニーが
傷口を押さえていた手を止めた
しばらく
ミトゥの顔を見つめ
静かに
その目を閉じさせた
「ザッカー軍曹!」
再び声が飛ぶ
ミークニーは立ち上がった
そして
振り返ることなく
声のした方へ走った




