森の外へ
あの夜を含め
四晩を森で明かした
二日目も
三日目も
そして四日目も
何も起こらなかった
もちろん
何もなかったわけではない
道なき森を歩いている
倒木を乗り越え
急な斜面を下り
時には川を渡った
足を滑らせる者もいれば
枝に服を引っ掛ける者もいる
ぬかるみに足を取られ
悪態をつく者もいた
それでも
それだけだった
日が昇れば歩き
日が傾けば
野営に適した場所を探した
火を起こし
食事を取り
交代で警戒しながら眠る
そして
翌朝になれば
また歩き始める
それを繰り返した
「……本当に何も出ないっすね」
三日目
歩きながらリナが呟いた
「出てほしいのか?」
タッカーが聞く
「そういう意味じゃないっすよ」
「だったら黙って歩け」
「なんか怖いんすよ。逆に」
「面倒臭え奴だな」
「タッカー軍曹は何とも思わないんすか?」
「思ってるよ」
「じゃあ同じじゃないっすか」
「口に出さねえだけだ」
その会話を聞いて
何人かが笑った
だが
リナの言いたいことは
皆にも分かっていた
往路では
森そのものが
自分達を殺そうとしているように感じた
どこへ進んでも
何かが待っていた
敵兵
獣
罠
道を変えても
進む方向を変えても
それから逃れることは出来なかった
それが今は
何もない
鳥が鳴き
風が木々を揺らし
時折
小さな獣が茂みの中を走っていく
ただの森だった
四日目になると
その違和感さえ
次第に薄れていった
歩くことにも慣れ
一日の進む距離も
おおよそ分かるようになった
食料にも余裕がある
怪我人もいない
何より
誰かを担いで歩く必要がなかった
往路では
何度も振り返った
後ろにいる仲間が
ついて来ているか
倒れていないか
いつの間にか
いなくなっていないか
今は
振り返れば
全員いる
二十五人
誰一人欠けることなく
王国へ向かっていた
そして
五日目
朝から
森の様子が少しずつ変わり始めた
最初に気付いたのは
光だった
「明るくなってきたっすね」
リナが空を見上げる
木々の隙間から差し込む光が
昨日までより明らかに多い
木と木の間隔も
少しずつ広がっている
下草の様子も違う
「もう近いんじゃないか?」
タッカーが言った
ユーリイは答えず
周囲を見渡した
見覚えがある
正確に
どこだったかまでは思い出せない
だが
この辺りを通った
それだけは分かった
「近いと思います」
ユーリイが答えた
「どれくらいだ?」
「このままなら、今日中には」
その言葉に
何人かの表情が変わった
今日中
その意味を
誰も聞き返さなかった
さらに歩いた
一時間
二時間
森は
少しずつ薄くなっていく
空が広くなる
風の流れも変わった
そして
先頭を歩いていた者が
突然立ち止まった
後ろを歩いていた者達も
次々と足を止める
誰も
何も言わなかった
木々の向こう
光が見えた
森の中に差し込む
木漏れ日ではない
その先に
空がある
「……出口っすか?」
リナが呟いた
ユーリイは
しばらくその先を見つめていた
「行きましょう」
再び
歩き始める
一歩
また一歩
木々の間を抜けていく
足元を覆っていた落ち葉が減り
下草が低くなっていく
そして
先頭を歩いていた者の身体を
強い光が照らした
森を
抜けた
一人
また一人
木々の間から
外へ出ていく
二十五人全員が
不帰の樹海の外へ出た
しばらく
誰も言葉を発しなかった
空が広い
ただ
それだけのことが
妙に懐かしかった
振り返れば
そこには
今まで歩いてきた森がある
かつて
二度と出ることは出来ないと思った森
その森を
今
自分達は
自分の足で抜けた
「……帰ってきたっすね」
リナが言った
「ああ」
誰かが答えた
その時だった
「おい」
タッカーが声を上げた
皆が振り返る
タッカーは
森とは反対の方向を見ていた
「……あれ」
ユーリイも
そちらを見る
森を出た先
開けた土地の向こう
ここから
一キロほどだろうか
複数の天幕があった




