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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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秘密

「君達男性陣の生殖能力不能が解消されたって話。」


「彼女達にはしてなかったっけ?」


沈黙


誰も動かない


エンロだけが、不思議そうに首を傾げていた


ユーリイは目を逸らす


ミークニーは額へ手を当てたまま動かない


タッカーに至っては、完全に窓の外を見ていた


その様子を見て、エンロがもう一度首を傾げる


「……してなかったんだね。」


「エンロ。」


ユーリイが低い声で名前を呼ぶ


「うん?」


「頼むから、もう何も言わないでくれ。」


「どうして?」


「いいから。」


「分かった。」


エンロは素直に口を閉じた


遅かった


メローペ


マルグリット


オーレリア


ジゼル


リュシエンヌ


五人の視線が、ユーリイ達へ向けられている


その中でもマルグリットの視線が痛い


「……どういうことですか。」


誰に尋ねたのかは明らかだった


しかし、ユーリイは答えない


ミークニーも答えない


タッカーはまだ外を見ている


「シーゲル軍曹!」


マルグリットの鋭い声が飛んだ


反射的にユーリイの背筋が伸びる


「はい!」


「説明なさい。」


「……。」


「シーゲル軍曹。」


「いや、その……。」


ユーリイは困ったように頭を掻く


「説明しろと言われても。」


「今、エンロが説明した通りであります。」


「そういうことを聞いているのではありません。」


即座に返ってきた


「いつから知っていたのです。」


「ここで治療を受けた後であります。」


「それは分かっています。」


マルグリットの眉間に皺が寄る


「いつ、あなた達自身が知ったのかと聞いています。」


ユーリイはミークニーを見る


ミークニーが顔を逸らした


タッカーを見る


タッカーは窓の外を見たままだった


「お前ら……。」


誰も助けてくれない


仕方なくユーリイは答える


「目が覚めて、少し経ってからです。」


「つまり。」


マルグリットの声が低くなる


「かなり前から知っていたのですね。」


「まあ……。」


「何故黙っていたのですか。」


その問いに、ユーリイの表情が少しだけ変わった


先ほどまでの気まずそうな顔ではない


「それは。」


一度言葉を選ぶ


「俺達だけで決めていい話じゃないと思ったからです。」


マルグリットが僅かに眉を上げる


「不能者だった俺達が、不能者じゃなくなった。」


「それがどういう意味を持つのか。」


「正直、俺達にも分かりません。」


「国へ帰った後、俺達がどういう扱いになるのか。」


「元の家との関係がどうなるのか。」


「軍ではどうなるのか。」


「何も分からない。」


ミークニーも頷く


「それに、治療法そのものが我々の世界には存在しないものです。」


「不用意に話せば、我々だけの問題では済まなくなる可能性があります。」


「だから。」


ユーリイが続ける


「帰って、然るべき人に報告するまでは黙っておこうと。」


「男達でそう決めました。」


マルグリットは黙った


メローペが静かに尋ねる


「それは分かったわ。」


「でも。」


ユーリイを見る


「私達にも?」


「……。」


ユーリイが再び黙る


ミークニーも黙る


タッカーはまた窓の外を向いた


「ナークニー伍長。」


オーレリアが声を掛ける


タッカーがゆっくり振り返った


「はい。」


「今、逃げましたよね。」


「自分は逃げておりません。」


「外を見たじゃないですか。」


「景色を見ていただけであります。」


「さっきから何度目ですか。」


「……。」


ジゼルがシーゲルを見る


「では、シーゲル。」


「俺?」


「あなたが一番話しているでしょう。」


するとタッカーが頷いた


「そうだな。」


「お前、俺達の代表だろ。」


「お前ら、都合が悪くなると俺を代表にするよな。」


「こういう時のための代表だろ。」


「そんな代表になった覚えはない。」


「ならミークニー。」


二人の視線が向く


「何故私なんですか。」


ミークニーが露骨に嫌な顔をした


「医療兵だろ。」


「医療兵であれば何でも説明出来ると思わないでいただきたい。」


「身体の話だろ。」


「自分の身体の話だから嫌なのです。」


「じゃあ誰が説明するんだよ。」


三人が互いに顔を見合わせる


誰も口を開かない


リュシエンヌが思わず吹き出した


全員の視線が向く


「ご、ごめんなさい。」


口元を押さえる


「でも。」


「あなた達、そんな顔もするのね。」


「どういう意味だ。」


ユーリイが聞く


「だって。」


リュシエンヌはまだ笑いを堪えている


「樹海の中では、あんなに何でも平然とやっていた人達が。」


「今は三人揃って、怒られた子供みたい。」


「笑い事ではありません。」


マルグリットがぴしゃりと言う


リュシエンヌは慌てて姿勢を正した


「はい。」


「まあまあ。」


そこでエンロが口を挟んだ


ユーリイが嫌そうな顔をする


「エンロ。」


「何だい?」


「もう何も言わないって言っただろ。」


「でも、彼らの話を聞いていた俺なら少し弁護出来ると思う。」


エンロは女性達を見る


「彼らが黙っていた一番の理由は、今ユーリイが言った通りだよ。」


「自分達だけでは判断出来ない重大な問題だと考えた。」


「その話は俺も聞いている。」


マルグリットの表情が少しだけ和らぐ


「そうですか。」


「うん。」


「だから、何となく隠していた訳じゃない。」


「彼らなりに考えて、今は話さない方がいいと判断したんだ。」


ユーリイ達三人が僅かに安堵する


助かった


そんな表情だった


「ただね。」


三人の表情が止まる


エンロは続けた


「彼らの話を聞いていて理解したことなんだけど。」


「単純に、生殖機能の問題は気軽に話せる話じゃないってこともある。」


女性達がエンロを見る


「やっぱり下の話であるだけに、男性の側として君達女性には気軽に話せなかった。」


「そのくらいは理解してやってもらえないか?」


「「「「「…………?」」」」」


今度は女性達が揃って首を傾げた


エンロも首を傾げる


「……あれ?」


メローペが尋ねる


「何が?」


「いや。」


エンロは少し考える


「ああ……。」


何かに気付いたように頷いた


「そこから説明しないと駄目なのか。」


ユーリイが顔を上げる


嫌な予感がした


「エンロ。」


「彼らはいい年をした男ではあるけど。」


「おい。」


「そういう話に関しては純粋な稚児……。」


「ちょっと待て。」


エンロは一度言葉を止めた


「……そこまで言ったらかわいそうか。」


「少年なんだよ。」


「「「ちょ!お前!」」」


三人の声が綺麗に重なった


部屋が静まり返る


女性達の視線が三人へ集まる


ユーリイは固まった


ミークニーは顔を覆った


タッカーは再び窓の外を向こうとして


今度はオーレリアに見つかった


「ナークニー伍長。」


「……はい。」


「また逃げましたね。」


「自分は逃げておりません。」


「今、絶対に外を見ようとしました。」


「景色を見ようとしただけであります。」


「さっきから景色を見過ぎです。」


「……。」


リュシエンヌが堪えきれず笑い出す


ジゼルも口元を押さえた


メローペまで小さく笑っている


マルグリットだけはしばらく真顔だったが


三人の様子を見て、ようやく意味を理解したらしい


「つまり。」


ユーリイを見る


「恥ずかしかったのですか?」


「違います。」


即答だった


「重大事象だからです。」


「それは分かりました。」


「なら、それでいいじゃないですか。」


「では、恥ずかしくはなかったと?」


「……。」


ユーリイは黙った


マルグリットがミークニーを見る


ミークニーも目を逸らす


そしてタッカーを見る


タッカーは何も言わず、正面だけを見ていた


「なるほど。」


「エンロ。」


ユーリイが低い声を出す


「何だい?」


「助けてくれたことには感謝する。」


「うん。」


「でも後半はいらなかった。」


「そうかい?」


「絶対いらなかった。」


また小さな笑いが起きる


その笑いが収まるのを待って、メローペが静かに口を開いた


「でも。」


声が少しだけ柔らかくなる


「少し考えれば分かることだったわ。」


ユーリイが顔を上げる


「あなた達にとって、不能者であることは身体だけの問題ではないのね。」


「家を離れ。」


「国に預けられ。」


「軍へ送られ。」


「捨て石として扱われた。」


「あなた達の人生そのものを変えたもの。」


誰も口を挟まない


「それが治ったからといって。」


「では元に戻りましょう、とはならない。」


ユーリイは僅かに頷いた


「はい。」


短い返事だった


ミークニーも静かに続ける


「我々自身、どうすればいいのか分からないのであります。」


「嬉しくないの?」


オーレリアが尋ねる


ミークニーは少し考えた


「嬉しいか嬉しくないかと聞かれれば。」


「おそらく、嬉しいのでしょう。」


「おそらく?」


「はい。」


ミークニーは苦笑する


「不能者であると告げられた日から、それを受け入れて生きてきました。」


「戻ることなど無いと思っていたものが、突然戻ったと言われても。」


「では今日から以前と同じ人生へ戻れるかと言えば、そうではありません。」


少しだけ間を置く


「我々はもう、以前の我々ではありませんから。」


ユーリイは何も言わない


タッカーも俯いている


その言葉だけで十分だった


彼らは一度、家族から切り離された


立場を失った


未来を失った


そして軍へ送られた


不能者として


死ぬことを前提に


それを今になって


治った


そう言われても


失った時間まで戻る訳ではない


「……ごめんなさい。」


オーレリアが小さく言った


「いえ。」


ミークニーは首を横へ振る


「謝ることではありません。」


しばらく沈黙が続く


やがてマルグリットが口を開いた


「では。」


先ほどとは声が違っていた


怒っているのではない


考えている


「このことを、他に誰が知っていますか。」


三人が顔を見合わせる


ユーリイがエンロを見る


「この村では?」


「治療に関わった者なら知っていると思うよ。」


「それ以外は?」


「わざわざ話してはいない。」


「外の世界では?」


「誰も。」


ユーリイが答える


「俺達以外は誰も知りません。」


「他の男性達は?」


「知っています。」


「全員?」


「はい。」


「女性達は?」


「……。」


その沈黙だけで答えになった


マルグリットは額へ手を当てる


「あなた達……。」


「申し訳ありません。」


「だから謝罪の問題ではありません。」


マルグリットの表情がさらに険しくなる


メローペも何かを考えていた


「彼らが不能者でなくなったことが知られれば。」


クレールが静かに口を開く


「彼らの身分そのものが問題になるのではありませんか。」


「いえ。」


ジゼルが口を挟んだ


全員の視線が集まる


「少なくとも、元の家が彼らを返せと主張して、それだけで元へ戻されるようなことはないはずです。」


マルグリットがジゼルを見る


「陸軍法ですね。」


「はい。」


ジゼルは頷く


そして、シーゲル達へ視線を向けた


「不能者として軍へ引き渡された時点で、彼らの身分は国家へ帰属します。」


「その時、それまでの名前も失う。」


ユーリイが僅かに眉を動かした


「軍から新しい名前を与えられ。」


「その名で軍務に就く。」


「そして五年の任期を終えれば。」


ジゼルは一度言葉を切る


「元の家の人間へ戻るのではありません。」


「軍から与えられた新しい名前を持つ、一個人として人格が確立されます。」


オーレリアが少しだけ表情を緩める


「では。」


「元の家へ戻される心配はないの?」


「原則としては。」


ジゼルは答えた


しかし、すぐに首を横へ振る


「ただし。」


「今回のような事態を陸軍法が想定しているとは思えません。」


部屋が再び静かになる


「不能者として国家へ引き渡された男性が。」


「任期の途中で生殖能力を取り戻す。」


「そのような前例を、私は知りません。」


「では……。」


オーレリアが言葉を濁す


「分かりません。」


ジゼルははっきり答えた


「法律の原則だけなら、彼らは既に元の家から切り離されています。」


「ですが。」


「不能者ではなくなったという事実を理由に、何者かが異議を唱えた場合。」


少し考える


「最終的にどのような判断が下されるかまでは、私には分かりません。」


ユーリイが小さく息を吐く


「だから、やっぱり重大事象なんだよ。」


「ええ。」


今度はマルグリットも否定しなかった


メローペが静かに頷く


「黙っていた判断は正しかったと思うわ。」


そして


ふと何かに気付いたように表情を変えた


「それだけではないわね。」


全員がメローペを見る


「生殖能力を失った男性が、ここへ来れば治る。」


その一言で、部屋の空気が変わった


この世界で男は少ない


その中で、生殖能力を失った男が再び子を残せるようになる


もし、その事実が外へ知られれば


「それは……。」


オーレリアが呟く


「大変なことになりますね。」


「男性だけとも限らないでしょう。」


ミークニーが険しい顔で続ける


「もし同じ技術で、女性の生殖能力に関わる異常まで治療出来るのであれば……。」


「ああ。」


エンロが何でもないことのように頷いた


「少数ではあるけど、女性陣にも生殖機能の異常が確認されていたよ。」


「え?」


オーレリアが声を上げる


「そちらも既に治療済みだ。」


女性達の表情が止まった


「女性だと。」


エンロはその中の一人を見る


「あなた、オーレリアさんと。」


「ここにはいないロスリーさんだね。」


「私?」


オーレリアが自分を指差す


「そう。」


「ちょっと待ってください。」


オーレリアの顔から笑みが消える


「私に……生殖機能の異常があったのですか?」


「うん。」


エンロはあっさり頷いた


「特にオーレリアさんは、遺伝子に異常が確認された。」


「あなたの家系では、子供が生まれにくいんじゃないかな?」


オーレリアの表情が固まった


「……どうして。」


小さな声だった


「どうして、それを。」


全員の視線がオーレリアへ向く


「母の姉も。」


オーレリアは戸惑いながら続ける


「子供が出来るまで、随分時間が掛かったと聞いています。」


「祖母の姉は、とうとう一人も……。」


そこで言葉を止めた


エンロが頷く


「やっぱり。」


「偶然ではないと思うよ。」


「あなたの場合は、生殖機能に関係する遺伝子情報の一部に異常があった。」


「おそらく、家系の中で受け継がれてきたものだろうね。」


オーレリアは何も言わない


「でも。」


エンロは続ける


「それも治療してある。」


「……治療。」


「そう。」


「今は問題ないよ。」


オーレリアは呆然と自分の身体を見る


当然、何も変わって見えない


今まで自分に異常があることすら知らなかった


それが


知らないうちに治っていた


「ロスリーさんは?」


ミークニーが尋ねる


「彼女はオーレリアさんとは違う。」


「遺伝的なものではなく、別の原因だね。」


「でも、生殖機能に問題があったことには変わりない。」


「そちらも治療済みだよ。」


ユーリイが何とも言えない顔でエンロを見る


「……本人達には?」


「言ってないよ。」


「何でだよ。」


「聞かれなかったから。」


「お前な……。」


ユーリイが額へ手を当てる


その横でタッカーが小さく呟いた


「……自分達だけではなかったんですね。」


マルグリットが振り返る


「何か言いましたか?」


「いえ、何も。」


即答だった


リュシエンヌがまた笑いそうになり


慌てて口を閉じる


しかし


今度は笑っている場合ではなかった


オーレリアが治った


ここにはいないロスリーも治った


つまり


この施設が治せるのは、男性の不能だけではない


メローペの表情が険しくなる


「それなら、なおさら……。」


「ちょっと待って。」


エンロが口を挟んだ


「彼らにも言ったことなんだけどね。」


ユーリイ達を指す


「そこまで都合がいい状況じゃない。」


メローペが眉を寄せる


「どういうことなの?」


「今日まで、二千年経ってる。」


エンロは静かに答えた


「この施設は、その二千年の間に数多くの人間を治療してきた。」


「病気。」


「怪我。」


「出産。」


「感染症。」


「時には、今の君達なら助からないような人間も治療してきた。」


「でも。」


「何かを使えば、当然減る。」


エンロはそこでユーリイ達を見る


「そして数週間前。」


「君達が来た。」


「二十五人。」


「全員ボロボロだった。」


誰も口を挟まない


「重傷者もいた。」


「感染症を起こしている者もいた。」


「身体の一部を失っている者もいた。」


「長い間治療されていなかった古傷を抱えている者もいた。」


「その二十五人全員へ、可能な限りの治療を行った。」


エンロは全員を見渡す


「これが何を意味するか。」


「分かるかい?」


「「「「「…………。」」」」」


誰も答えられない


エンロは少し寂しそうに笑った


「最後に残っていた医療リソースを使ったんだよ。」


メローペの表情が変わる


「最後……。」


「そう。」


「もちろん、完全に何も出来なくなった訳じゃない。」


「普通の怪我や病気なら、まだ治療出来る。」


「でも。」


「失った身体を再生したり。」


「遺伝子そのものへ手を入れたり。」


「君達に行ったような大規模な治療を。」


「あと何人に出来るか……。」


エンロは首を横へ振る


「これは俺にも分からない。」


誰も言葉を発しなかった


先ほどまで頭の中に浮かびかけていたもの


この場所へ来れば救える


不能者を


子を望みながら授からない者を


病人を


傷ついた者を


その考えが、静かに消えていく


「それに。」


エンロは続ける


「国へ帰った君達が、再びここへ戻って来られるとも俺は思っていない。」


「何度も言うけど。」


「君達がここへ来られたこと自体が奇跡なんだ。」


帰らずの樹海


その言葉が全員の頭を過る


「君達がここへ辿り着いたことも奇跡。」


「まだ治療設備が残っていたことも奇跡。」


「二十五人全員へ治療を行えたことも奇跡。」


エンロは一人一人の顔を見る


「そして。」


「君達全員が完全な状態まで治癒したことも。」


「奇跡だ。」


静かな声だった


「今ここで。」


「俺が君達とこうして話をしていることは。」


少しだけ笑う


「そうした奇跡の集大成なんだよ。」


部屋は静まり返った


二千年前の文明が残した技術


失った手足さえ取り戻し


病を治し


遺伝子へ手を加えることすら出来る


だが


それは無限ではない


二千年という時間は


その奇跡を少しずつ使い続けてきた


そして最後に残っていたものを


自分達二十五人が使った


ユーリイは自分の手を見る


傷一つ残っていない


あれほど傷だらけだった身体も


今は何事もなかったかのように動く


それは当然のことではなかった


メローペが静かに息を吐く


「それでも。」


「このことが知られれば、ここへ来ようとする者は現れるでしょうね。」


「でしょうね。」


マルグリットが答える


「実際に治療出来るかどうかは問題ではありません。」


「治療出来た者がいる。」


「その事実だけで十分です。」


クレールも頷く


「軍が動く可能性もあります。」


「他国へ知られれば、なおさらでしょう。」


「ここへ至る道を探す者。」


「施設を手に入れようとする者。」


「技術を持ち帰ろうとする者。」


「必ず出てくる。」


リュシエンヌが小さく呟く


「帰らずの樹海なのに……。」


「それでも来る者はいるでしょう。」


メローペが答えた


「人は、奇跡があると知れば。」


「自分にもその奇跡が起きると思うものです。」


エンロは何も言わなかった


ただ、少し困ったように笑っている


メローペは全員を見渡した


先ほどまでの柔らかな表情は消えている


そこにいるのは、王女だった


「この件について。」


全員の視線が集まる


「ここで聞いたことは、全て他言無用とします。」


「彼らの生殖能力が回復したこと。」


「オーレリアやロスリーの治療についても。」


オーレリアが僅かに顔を上げる


「この村に、その治療を行った技術が存在すること。」


「そして、今聞いた治療の内容。」


「外では誰にも話してはいけません。」


マルグリットが深く頷く


「私も殿下に賛成いたします。」


そして今度はユーリイ達を見る


「いいですか。」


「あなた達もです。」


「はい。」


「絶対に口外しないでください。」


「分かりました。」


ユーリイが答える


タッカーも頷く


ミークニーも静かに頭を下げた


マルグリットはさらに続ける


「他の男性達にも、もう一度徹底させてください。」


「この話は、自分達だけの秘密ではありません。」


「下手をすれば、この村にまで危険が及びます。」


「承知しました。」


「それと。」


マルグリットは一度言葉を止める


三人を見る


「女性達には。」


ユーリイの顔が僅かに引きつる


「……話さないと駄目ですか。」


「当たり前でしょう!」


「ですよね。」


タッカーが小さく笑う


「頑張れよ。」


「お前も一緒だ。」


「え?」


「全員で説明するぞ。」


「俺も?」


「当たり前だ。」


ユーリイはミークニーを見る


「ミークニー。」


「私は医療兵として、必要な説明に徹します。」


「逃げるな。」


「逃げておりません。」


「今、絶対逃げようとしただろ。」


「しておりません。」


リュシエンヌがとうとう堪えきれずに笑った


ジゼルも僅かに口元を緩める


オーレリアも


まだ少し戸惑った表情のまま


それでも小さく笑った


マルグリットは何か言おうとして


結局、小さく息を吐く


メローペも笑っていた


二千年前の人類の罪


新人類


家畜


隠された枷


そして


自分達の身体に起きた変化


あまりにも多くのことを知った一日だった


それでも


ユーリイは少しだけ肩の力を抜いた


秘密を知る者が増えた


本来なら恐れるべきことなのかもしれない


だが、不思議と今はそう思わなかった


自分達だけで抱えていたものを


今度は彼女達も一緒に守ると言った


それだけで


少しだけ軽くなった気がした


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