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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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論理への反逆

部屋は静まり返っていた。


誰一人として言葉を発しない。


エンロも、すぐには続きを話さなかった。


全員が今まで聞いた話を整理する時間を待っていた。


やがて、小さく息を吐く。


「人類は行き詰まった。」


「文明は発達した。」


「食べる物もある。」


「病気も減った。」


「しかし、人が足りない。」


「そして、その問題は何十年、何百年という時間をかけても解決しなかった。」


エンロは静かに続ける。


「もちろん、人類は最後まで諦めなかった。」


「新しい機械。」


「新しい制度。」


「新しい法律。」


「出来ることは何でも試した。」


「それでも、人でなければ出来ない仕事は残る。」


「介護。」


「医療。」


「危険を伴う作業。」


「高度な判断を必要とする仕事。」


「最後の最後まで、人が必要だった。」


ミークニーが静かに呟く。


「つまり……。」


「人は必要だが、人は増えない。」


「そう。」


エンロは頷いた。


「そこで、一つの考えが生まれた。」


部屋がさらに静かになる。


「人間を増やせないなら。」


「人間の代わりを作ればいい。」


誰も反応しない。


あまりにも突飛な発想だった。


エンロは続ける。


「当然、その考えは世界中で受け入れられた訳じゃない。」


「多くの国は倫理を理由に反対した。」


「人を作るなど許されない。」


「生命を弄ぶ行為だ。」


「そう考える者がほとんどだった。」


「しかし。」


「倫理観より成果を優先する国もあった。」


「主に独裁国家だ。」


「そうした国々では、人類とは別の労働力を生み出す研究が始まる。」


「最初から人間ではなかった。」


「まずは動物だった。」


「人語を理解する犬。」


「道具を扱える熊。」


「命令を理解する大型哺乳類。」


「様々な研究が行われた。」


エンロは少し笑う。


「もちろん、大半は失敗だった。」


「知能が足りない。」


「寿命が短い。」


「繁殖できない。」


「制御できない。」


「問題ばかりだった。」


「しかし、一つだけ成功例が現れる。」


誰も身じろぎしない。


「ある独裁国家が。」


「人の言葉を半分ほど理解するサルの開発に成功した。」


「人の指示に従い。」


「簡単な道具を使い。」


「集団で行動できる。」


「労働力としては十分だった。」


エンロは皮肉げに笑う。


「そこからだ。」


「今まで倫理を盾に研究を拒んでいた国々が。」


「一斉に研究へ参加する。」


「自分たちだけ研究しなければ。」


「技術で負ける。」


「経済で負ける。」


「軍事でも負ける。」


「そんな恐怖が世界中へ広がった。」


「そして、人類は一つの一線を越えた。」


部屋の空気が重くなる。


「人を改造する。」


「いや。」


「人を設計する研究が始まった。」


エンロはユーリイ達を見つめる。


「ベースとなったのは人間。」


「そこへ。」


「牛。」


「豚。」


「山羊。」


「その他、人間と長い年月を共にしてきた家畜の遺伝子が組み込まれていく。」


ミークニーが息を呑む。


「何故……家畜だったんだ。」


エンロは静かに答えた。


「人より力が強い。」


「穏やかな性質。」


「長い年月をかけて、人と共に生きるよう改良されてきた。」


「そして何より。」


「人へ従順だったからだ。」


部屋には誰の声もなかった。


エンロは最後にゆっくり口を開く。


「そうして誕生した新しい人類。」


「それが。」


「新人類。」


「君たちの祖先なんだ。」


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