真実の扉
情報センターを後にしたユーリイとミークニーは、その足でエンロの家へ向かった。
「エンロ。」
「うん?」
奥から姿を現したエンロは、二人の表情を見るなり首を傾げた。
「ユーリイ、それにミークニー。」
「二人してどうしたの?」
「怖い顔をして。」
普段なら笑って返すユーリイだったが、この日は違った。
「ライブラリーで調べた。」
「新人類と旧人類のことだ。」
その言葉を聞いたエンロは、一瞬だけ目を丸くした。
しかし、すぐに苦笑する。
「はは。」
「君たちは意外と……。」
少し考え、首を横に振った。
「いや、それは失礼だったね。」
「君たちは本当に優秀なようだ。」
「そこまで辿り着いたか。」
静かな空気が流れる。
「まぁ、全ての情報にプロテクトを掛けていた訳じゃないからね。」
「それでも、数週間前まで使ったこともなかったライブラリーシステムから、そこまで辿り着く者が現れるとは思わなかったよ。」
エンロは二人を見つめる。
「そうだな。」
「少し難しい話になる。」
「君たちにとっては、神話や伝説に近い話だ。」
「聞くかい?」
「ああ。」
ユーリイは迷わず頷く。
するとエンロは小さく笑った。
「でも。」
「君たち二人だけでいいのかい?」
「え?」
「結構重大な話をするつもりだけど。」
「他に聞かせたい人とかいない?」
ユーリイとミークニーは顔を見合わせる。
その発想はなかった。
ミークニーが静かに口を開いた。
「メローペ殿下には聞いていただくべきだと思う。」
「ああ。」
ユーリイも頷く。
エンロは満足そうに微笑んだ。
「人数は君たちに任せるよ。」
「何人でも連れておいで。」
「なんなら全員でもいい。」
「誰を連れて来るか。」
「それも君たちが決めなさい。」
二人は頭を下げ、そのまま王女一行の宿舎へ向かった。
宿舎の入口では、リュシエンヌが荷物を整理していた。
ユーリイは姿勢を正す。
「少尉、少しよろしいでしょうか。」
リュシエンヌが振り返る。
「あら。」
「私にはそういうのはいいって言ったでしょ。」
そう笑ってから、二人の表情を見て笑みを消した。
「それで、何の用?」
「王女殿下に報告があります。」
「取り次いでもらえないでしょうか。」
リュシエンヌの表情も引き締まる。
「殿下に?」
「……大事な話?」
「私が聞いていい話?」
「出来れば直接、殿下へ報告したいであります。」
リュシエンヌは少し考え、小さく息を吐いた。
「ふぅ。」
「分かったわ。」
「取り次いであげる。」
「あなたたちには世話になったしね。」
しばらくして二人は部屋へ案内された。
部屋ではメローペを中心に、マルグリット、オーレリア、ジゼルが席についていた。
その傍らではクレールが書類を片手に何やら報告を行っている最中だった。
ユーリイ達に気付くと、クレールは一歩下がって敬礼する。
「失礼しました。」
メローペが穏やかに微笑む。
「ちょうどクレールから遠征後の報告を受けていたところなの。」
「それで、私に話があるそうね。」
ユーリイは一礼した。
「はい。」
「この村の責任者、エンロ・フロキッサから重大なお話があります。」
「出来れば殿下にも、ご一緒に聞いていただきたいのです。」
その瞬間、マルグリットが鋭く前へ出た。
「あなたたち。」
「殿下を連れ出そうなんて、場合によっては不敬罪で銃殺刑よ。」
部屋の空気が一変する。
その時だった。
「まあまあ。」
リュシエンヌが苦笑しながら間へ入る。
「彼らも真剣ですし。」
「何より、私たちは命の危機を何度も彼らに助けられています。」
「十分信用できる者達かと。」
しかしマルグリットは譲らない。
「なら、ここで全て話しなさい。」
ユーリイは静かに首を横へ振った。
「申し訳ありません。」
「俺の口から話すべき内容ではありません。」
「エンロ本人から聞いていただきたいのです。」
メローペが静かに尋ねる。
「内容は?」
「……。」
ユーリイは答えなかった。
答えられなかった。
その沈黙だけで、この話の重さが伝わる。
メローペはしばらくユーリイを見つめ、やがて小さく頷いた。
「分かったわ。」
「ついて行きましょう。」
「殿下!」
マルグリットが声を上げる。
しかしメローペは静かに制した。
「マルグリット。」
「そこまででいいわ。」
「彼がここまで口を閉ざすということは、それだけ重大な話なのでしょう。」
そう言って立ち上がると、今度はクレールへ視線を向けた。
「クレール。」
「あなたも来なさい。」
クレールは少し驚いたように目を瞬かせた。
「私も……ですか。」
「ええ。」
「あなたは、この遠征を率いた士官の一人。」
「聞いておくべき話だと思うわ。」
「承知しました。」
メローペは続けて部屋を見回した。
「マルグリット。」
「オーレリア。」
「ジゼル。」
「リュシエンヌ。」
「あなたたちも同行してください。」
全員が静かに頷く。
ユーリイはその光景を見ながら、改めてこの話の重さを実感していた。
これから聞くのは、帰らずの樹海の秘密ではない。
自分たちの世界、そのものの始まりに関わる話なのだから。




