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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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新人類

翌朝


ユーリイは朝食を終えると、そのまま医療棟へ向かった


「ミークニー」


診療記録を整理していたミークニーが顔を上げる


「おや」


「どうしたんだい」


「昨日ライブラリーで妙な話を聞いた」


「俺一人じゃ理解できそうにない」


「付き合ってくれ」


ユーリイの表情はどこか硬い


ミークニーは何も聞かず立ち上がった


「分かった」


二人はそのまま情報センターへ向かった


昨日と変わらぬ静かな部屋


ユーリイは椅子へ腰を下ろす


「クエス」


『はい』


「昨日の続きを頼む」


『承知しました』


ミークニーは画面を見つめる


「ユーリイから大まかな話は聞いた」


「新人類について教えてほしい」


『はい』


『新人類とは旧人類を基に設計された新しい人類です』


「設計という言葉が気になる」


「生まれたのではなく、作られたという意味なのかい」


『はい』


『旧人類は遺伝子工学を用い、人類を設計しました』


「遺伝子とは何だい」


『遺伝子とは生物の設計情報です』


『身体の形』


『筋肉』


『骨格』


『病気への耐性』


『代謝能力』


『様々な情報が記録されています』


ミークニーは静かに頷いた


「つまり設計図のようなものだね」


『概ね正しい認識です』


「その設計図を書き換えた」


『はい』


「昨日、牛や豚という言葉が出たそうだね」


『新人類には牛、豚、山羊など家畜由来の遺伝子が利用されました』


「なぜ家畜なんだい」


『人間より肉体的に強いこと』


『穏やかな性質を持つこと』


『長期間に渡り家畜化され、人との共生実績があったこと』


『繁殖技術が確立されていたこと』


『これらが主な理由です』


「なるほど……」


ミークニーは腕を組む


「だから外見は人間でも、中身は少し違うということか」


『はい』


『ただし外見は旧人類と極めて近く設計されています』


「他には」


『病気への耐性』


『環境への適応能力』


『身体能力の向上』


『その他、目的に応じた機能追加が行われました』


「目的に応じた機能追加」


「それは残りの遺伝子か」


『はい』


『全体のおよそ五パーセントです』


「五パーセントだけでそんなに変わるものなのか」


『目的は身体全体を変えることではありません』


『必要な能力のみ追加しています』


ユーリイは頭を掻く


「やっぱり難しいな」


「俺にはさっぱりだ」


ミークニーは苦笑する


「僕も全部理解できた訳じゃない」


「でも少しずつ見えてきた」


「昔の人間は、人をより便利な存在へ作り変えようとした」


『はい』


「その理由は人口減少だったね」


『はい』


『成熟した文明を持つ国家では少子高齢化が進行します』


『各国は様々な政策を行いました』


『しかし十分な成果は得られませんでした』


『そこで安定した繁殖が可能な家畜へ着目しました』


『言葉を理解する家畜』


『あるいは』


『家畜のように従順で、人の法律が適用されない人間もどき』


『その開発が進められました』


情報センターへ静寂が戻る


ユーリイは思わず顔をしかめた


「……それ、人間じゃないのか」


『旧人類の一部は新人類を人間とは認識していませんでした』


「ひどい話だ」


誰に向けた言葉でもなかった


ただ自然と口から漏れた


ミークニーもしばらく黙っていた


やがて静かに息を吐く


「一つだけ聞いてもいいかな」


『はい』


「その新人類は」


「この施設にもいたのかい」


ほんの僅かな沈黙


『知りません』


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