旧人類
昼食を終えたユーリイは、一人情報センターへ足を運んだ
目的があった訳ではない
ただ、知らないことを調べるのが少しだけ面白くなっていた
扉を開けると、今日も静かな空気が流れている
席へ腰を下ろし、正面の画面へ向かって声を掛けた
「クエス」
『はい』
「少し付き合ってくれ」
『喜んで』
どこか人と話しているような返事に、思わず笑みがこぼれる
「ナストロンドって、今は何人くらい住んでるんだ」
『現在の登録住民は百八十七名です』
「意外と多いな」
『建設当初は二百七名でした』
「そんな昔から記録が残ってるのか」
『はい』
少し考え、別のことを聞く
「この施設を造ったのは誰なんだ」
『建設責任者はマルヴォ・フロキッサです』
『賛同者およそ二百名と共に建設されました』
「エンロと同じ姓だな」
『エンロ・フロキッサは三十七代目の子孫に当たります』
「三十七代……」
二千年という時間が、少しだけ現実味を帯びた
ふと、外の世界のことが気になる
「アバディーン・アンガスについて教えてくれ」
短い間
『該当するデータはありません』
「そうか」
「じゃあ、ガランマラン湖は」
『その名称はデータベースへ登録されていません』
「今ある国のことは分かるか」
『現在の国家に関する情報は保有していません』
ユーリイは腕を組んだ
「昔のことしか知らないんだな」
『私が保有する外部情報は、およそ二千年前までとなります』
「なるほど」
だから今の世界は分からないのか
納得すると同時に、一つ気になる言葉を思い出す
「じゃあ、ナストロンドが造られた理由を教えてくれ」
『当時、世界中で起こった新人類と旧人類との争いから逃れるためです』
聞き慣れない言葉だった
「新人類?」
『旧人類とは単一種のヒトを指します』
『新人類とは、旧人類を基に、牛、豚、山羊など家畜動物の遺伝子を組み合わせて設計された新しい人類です』
「……設計?」
『人口減少による労働力不足を補う目的で開発されました』
『言葉を理解する家畜』
『あるいは、人の法律が適用されない労働力として利用する目的がありました』
ユーリイは眉をひそめる
「昔の奴らも、とんでもないことを考えるな」
苦笑しながら椅子へ背を預ける
だが、一つだけ引っ掛かった
「待てよ」
「じゃあ、エンロ達は、その旧人類なんだな」
『はい』
「……」
何気なく返ってきた返事
だが、その一言が胸へ引っ掛かった
「じゃあ……」
少しだけ喉が渇く
「俺たちは……違うのか」
ほんの僅かな沈黙
『あなた方の個人登録時の解析結果から判断すると、そのようです』
ユーリイは息を呑む
「なぜ、それが分かる」
『個体情報登録時、私は虹彩認証を含む生体情報の解析を行っています』
『あなた方の虹彩は旧人類とは異なっています』
ユーリイは思わず目を瞬かせた
「それだけで分かるのか」
『いいえ』
『旧人類は新人類を識別するため、認識マークを残しています』
「認識マーク?」
『肉眼では確認できません』
『私のような解析設備によってのみ確認可能です』
部屋が急に静かになったような気がした
ユーリイはしばらく画面を見つめたまま動けない
やがて小さく息を吐く
「……今日はここまでにする」
『承知しました』
席を立ち、情報センターを後にする
頭の中では、先ほど聞いた言葉が何度も繰り返されていた
**旧人類**
**新人類**
そして――
**あなた方は、そのようです**
一人で考えても答えは出そうになかった
「……ミークニーに聞いてみるか」
ユーリイは足早に医療棟へ向かった。




