神の御業
『女王が統治する国家そのものは、決して珍しくありません。』
『しかし、女性が騎士となる物語は比較的珍しいですね。』
三人は顔を見合わせた。
「え?」
ユーリイが思わず聞き返す。
「俺たちの国じゃ、兵士は女ばっかりだぞ。」
「女王も女。」
「王太子も女。」
「大臣も、官僚も、領主も、店主も、頭取も……みんな女だ。」
「俺たちみたいな男の兵士なんて、ほとんどいない。」
クエスは即座に答えた。
『旧文明では、兵士の多くは男性でした。』
『騎士と呼ばれた者たちも、大半が男性です。』
『女性が騎士となる例は存在しましたが、決して一般的ではありません。』
タッカーが呆れたように笑う。
「なんだ、その世界。」
「そんなの、すぐに男がこの世からいなくなっちまうぜ。」
『もしかして、あなた方の世界では男性の数が少ないのですか?』
「ええ。」
ミークニーが静かに頷く。
「私たちの世界では、男女の出生比はおよそ一対五十です。」
『一対五十……。』
クエスは僅かに沈黙した。
『では、何故貴重なあなた方が兵士になっているのですか?』
「「「……」」」
三人は互いに顔を見合わせた。
やがてミークニーが静かに口を開く。
「私たちは生殖能力不能者です。つまり、子種に異常があったり、そもそもの男性機能に異常がある者たちです。」
タッカーが肩を竦める。
「だから、捨て石のように扱われるのさ。」
「男は貴重でも、子を残せなきゃ価値はない。」
「危険な任務は、俺たちの役目ってわけだ。」
『原因は分かっているのですか?』
ミークニーは首を横に振る。
「いいえ。」
「少なくとも、私たちは神が意図をもってそのように人を作ったと教えられて育ちました。」
「男が減ったのも、生まれなくなったのも、神の意志によって、神の御業をもってなされた……と。」
『皆さんは、それを信じていたのですか?』
「ええ。」
「聖母アウレア教をはじめ、多くの宗教が多少表現こそ違えど、似たような教えを説いています。」
「不能者は神に罰を与えられた者。」
「だから精々、国のために尽くしなさい――そう教えられてきました。」
クエスは静かに聞いていた。
『なるほど。』
『つまり、生殖能力に異常があるということなのですね。』
「ええ。」
『生まれつきか、生まれた後かは分かりませんが、その程度であれば、この施設の医療設備で治療可能だったはずですが。』
「…………。」
誰も言葉を発しない。
「……今、何て言った?」
ユーリイがゆっくりと聞き返す。
『ですから、生殖能力の異常です。』
『この施設であれば、治療可能だったはずですが。』
三人は再び互いの顔を見た。
次に、部屋にいる仲間たちへ視線を向ける。
誰にも聞かせる話ではない。
ユーリイが小さく頷いた。
タッカーとミークニーも無言で頷き返す。
三人は何も言わず部屋を後にすると、人目を避けるように足早にエンロのいる診察室へ向かった。




