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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義 豊


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地稽古

カーン!


カカーン!


乾いた木の打ち合う音が、朝の村へ響き渡る。


向かい合うのはアデルハイドとエリス。


アデルハイドは右手にショートソードを模した木の棒、左手にはダガー代わりの木片を握る。


対するエリスは、ブロードソードを模した少し長めの木の棒を両手で構えていた。


互いに一歩も譲らない。


先に動いたのはアデルハイドだった。


地を蹴る。


一瞬で間合いを詰め、低い姿勢からエリスの懐へ飛び込む。


「っ!」


それを読んでいたエリスは左へ流れるように身体を捌き、袈裟に振り下ろす。


アデルハイドは紙一重でかわす。


そのまま右手、左手、右手。


三連続の刺突。


さらに四撃目。


五撃目。


カン!カカカーン!


木片と木剣が目にも止まらぬ速さでぶつかり合う。


「くっ……!」


エリスが一歩退く。


だが次の瞬間、鋭い一撃でアデルハイドの右手を弾いた。


木の棒が高く宙を舞う。


勝負あり。


そう思った瞬間だった。


「!」


左手だけが動く。


ダガー代わりの木片が、エリスの首筋へそっと当てられていた。


静寂。


エリスは肩を落とし、小さく笑う。


「参った。」


アデルハイドは木片を下ろし、大きく息を吐いて呼吸を整えた。


エリスも肩で息をしながら苦笑する。


「疲れましたわ……。」


額の汗を拭う。


「それにしてもアデル、あなたスピード上がってない?」


「?」


「私はいつもと同じ。」


「いや、絶対上がってる。」


エリスは首を横へ振った。


「かく言う私も、以前より剣のスピードが上がってる自覚があるんですのよ。」


「単に疲労が抜けたとか、そういうレベルじゃありません。」


「そうなのか?」


「そうなの!」


エリスは続ける。


「あと、疲れにくくなったと思わない?」


アデルハイドは少しだけ考え、


「ああ。それはそう思う。」


とだけ答えた。


そう言うと、再び構えを取る。


エリスは目を丸くした。


「え?」


「もう良いでしょ?」


「朝から何本打ち合ったと思うのよ。」


「私はまだ足りない。」


即答だった。


エリスは天を仰ぐ。


「えぇ……。」


その時だった。


「あっ!いい所に!」


畑仕事を終えたユーリイ、タッカー、イツォーの三人が、鍬を担いで通り掛かった。


「ちょっと、あなたたち!」


呼び止められた三人は条件反射で姿勢を正し、敬礼する。


「はっ!何でしょうか、少尉殿!」


「あなた方にお願いなんですが、アデル……いえ、クロイツベルク少尉の地稽古に付き合ってもらえないかしら?」


三人は顔を見合わせた。


「自分たちがですか?」


「腕には覚えがあるんでしょう?」


「剣でも、ナイフでも、銃剣でも、どんな戦い方でも構わないわ。本物は禁止。木の棒か木片だけ。」


困ったように笑う三人。


エリスは苦笑しながら言った。


「あまり使いたくないのですけど……上官命令、と言えばいいのかしら?」


「……でしたら、お相手させていただきます。」


ユーリイは巻き割り場へ向かう。


転がっていた短めの木の棒を一本。


さらに木片を一つ拾い、それぞれの重さを確かめる。


アデルハイドがそれを見る。


「……二刀。」


ユーリイは小さく笑った。


「独学です。」


その一言だけだった。


「お怪我をさせないよう心掛けますが……。」


アデルハイドは鋭く睨む。


「手加減はいらない。」


「……承知しました。」


互いに礼をする。


そして。


カンッ!!


初撃から、二人は同時に踏み込んだ。


速い。


エリスは思わず目を見開く。


アデルハイドは流れるような剣筋で間合いを支配する。


右手のショートソードで攻め、左のダガーで受け、すぐさま次の攻撃へ繋ぐ。


美しい。


まるで舞を見ているようだった。


しかし。


「……!」


ユーリイの動きはまるで違う。


受けない。


流す。


半歩ずらす。


木片は武器ではなく、相手の動きを止めるためだけに使われる。


木片がダガーを弾き、


短棒が肩口を狙う。


アデルハイドは身を沈めてかわす。


今度はアデルハイドの連撃。


一撃。


二撃。


三撃。


四撃。


ユーリイは最小限の動きだけで受け流し続ける。


互いに決定打を許さない。


見守るタッカーが思わず呟いた。


「……すげぇ。」


イツォーも息を呑む。


「俺だったら、とっくにやられてる。」


やがてエリスが声を掛けた。


「そこまで!」


二人は同時に動きを止める。


静かに礼を交わした。


「ありがとうございました。」


「……ありがとう。」


アデルハイドは短く礼を言う。


ユーリイも一礼した。


タッカーが笑う。


「しかし、お前って相変わらず凄いな。」


イツォーも頷く。


「一本も取られなかったじゃん。」


「でも、あの少尉もすごかったな。俺がやってたら負けてたかも。」


ユーリイは苦笑する。


「ああ。」


「全く気が抜けなかった。」


「訓練レベルじゃ、久しぶりに本気になった。」


その言葉を聞いたアデルハイドは、再び木の棒を構える。


「……もう一本。」


エリスが嫌な予感を覚えた。


「え?」


「エリス。」


「続きを。」


「……は?」


「まだ足りない。」


エリスはがっくりとうなだれた。


「もう嫌です~~!」


村中に笑い声が広がる。


その直後。


カーン!


カカーン!


再び乾いた木の音が、ナストロンドの朝へ響き渡った。


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