知識の蒐集者①
情報センター。
それぞれが思い思いの分野を学ぶ中、一人だけ異様な速度で検索を繰り返す者がいた。
ジゼルである。
机の上には何冊もの記録帳。
それは、エンロから譲り受けた紙を、同じく譲り受けた紐で束ねた、ジゼルお手製の記録帳だった。
そして、その一冊一冊には細かな文字がびっしりと並ぶ。
小さな注釈。
矢印。
余白まで埋め尽くす追記。
一目見ただけで、どれほどの時間を費やしたのかが伝わってくる。
クエスの画面が次々と切り替わる。
「二院制……。」
「上院。」
「下院。」
「貴族院。」
「民政院。」
「一院制。」
「議会政治。」
「王政との違い……。」
素早く記録する。
次。
「三権分立。」
「立法府。」
「行政府。」
「司法。」
「権限の分散……。」
また書く。
「絶対君主制。」
「立憲君主制。」
「象徴君主制。」
「国王にほとんど権限が無い?」
「そんな国家が成り立つの?」
ページをめくる。
画面が宗教へ切り替わった。
「現在の精霊神教……。」
「起源。」
「あら。」
「ジンタオ教。」
「今の精霊神教に似ている。」
「教義は少し違う。」
「こちらの方が古いのかしら。」
さらに画面を送る。
「聖母アウレア教……。」
「こちらも起源は同じみたい。」
「でも教義が少し違う。」
「どうして、こんなに変わってしまったのかしら。」
興味深そうに記録する。
さらに。
「消費税。」
「戻し税?」
「どうしてこんな面倒な制度を?」
「温泉税?」
思わず笑みが零れた。
「ふふ……。」
「これ、おもしろい。」
「通行税。」
「関所税。」
「廃止……。」
「なるほど。」
「物流を優先したのね。」
記録帳は止まらない。
ページをめくる。
また書く。
また検索する。
また書く。
静かな時間だけが流れていく。
その頃。
情報センターのあちこちでは、それぞれが興味を持った分野の資料へ目を通していた。
ユーリイは橋梁工学や道路整備。
ミークニーは感染症と免疫学。
マースは鍛冶技術。
誰もが、自分の知識を少しでも持ち帰ろうと真剣だった。
だが。
ジゼルだけは違う。
政治。
法。
宗教。
歴史。
経済。
教育。
行政。
分野を飛び越えながら、まるで国家そのものを理解しようとするかのように資料を読み漁っている。
ユーリイが苦笑した。
「……相変わらずだな。」
ミークニーも肩を竦める。
「私には無理です。」
「あれだけ頭を切り替えられません。」
ユーリイは静かに頷いた。
「俺は橋や道路。」
「現場で役立つ知識を調べてりゃ満足だ。」
「でも、あいつは違う。」
「あいつが知ろうとしてるのは。」
「国家そのものだ。」
その言葉を証明するかのように、ジゼルはまた新しいページを開く。
失われた文明が遺した知識は、一冊、また一冊と記録帳へ書き写されていく。
そしてその記録帳は、まだ誰も知らない未来へ向けて、静かに積み重ねられていった。




