カード遊び
情報センターの片隅。
「……タッカー。」
足元から声がした。
見ると、ナストロンドの子どもたちが数人、こちらを見上げている。
「何だ?」
「遊ぼ。」
「カード。」
「人数足りない。」
タッカーは苦笑した。
「悪い。」
「今日は疲れて──」
「パン焼き終わった。」
「……。」
「エンロが今日はもう仕事ないって。」
「……。」
逃げ道を完全に塞がれた。
「一回だけだぞ。」
「やったー!」
子どもたちが歓声を上げる。
机を囲み、札が配られる。
「これは?」
「道化師抜き。」
「最後まで道化師持ってた人の負け。」
「簡単だろ?」
「簡単簡単。」
タッカーは鼻で笑う。
「子どもの遊びじゃねぇか。」
勝負が始まった。
揃った札を捨てる。
隣から一枚引く。
また捨てる。
順調だった。
しかし。
「……。」
タッカーの眉が僅かに動く。
子どもたちが顔を見合わせた。
「あ。」
「持った。」
「持ったね。」
「何を。」
「道化師。」
「違う。」
「顔に出てる。」
「出てねぇ。」
「口。」
「眉。」
「目。」
「全部。」
「そんなにか!」
結局。
子どもたちは見事に道化師だけ避け続けた。
「またタッカーおじちゃん負けー!」
「弱ーい!」
「お前ら絶対ずるしてる!」
「してないよ。」
「全部顔。」
「くそっ……。」
その時だった。
部屋の入口を通り掛かったリナへ、タッカーが声を掛けた。
「おい。」
「お前。」
リナは足を止める。
露骨に嫌そうな顔をした。
「……自分っすか?」
「ああ。」
「お前だ。」
「名前は。」
「セリナ・ロスリー一等兵っす。」
「伍長殿。」
タッカーは頷く。
「ロスリー一等兵。」
「お前も入れ。」
リナは困ったように頭を掻いた。
「自分は遠慮しとくっす。」
「こういう遊び、あんまり。」
「上官命令だ。」
「拒否権はない。」
リナは小さくため息を吐いた。
「……了解っす。」
席へ着く。
子どもたちが札を配る。
リナは静かに手札を見る。
そしてタッカーを見る。
「一つだけ。」
「何だ。」
「伍長殿だからって。」
「手加減する道理はないっすよ。」
タッカーは笑った。
「いらねぇ。」
「本気で来い。」
勝負開始。
数分後。
「リナお姉ちゃん、上がり!」
「えー!」
「また!」
リナは淡々と札を揃えて机へ置いた。
子どもたちが悔しそうに唸る。
タッカーはまだ三枚残っていた。
そのうち一枚は、当然。
道化師だった。
「また持ってる。」
「分かりやすい。」
「何で分かるんだよ!」
「顔。」
「……。」
リナは堪え切れず、小さく吹き出した。
本当に小さな笑いだった。
誰もそこには触れない。
「また負けー!」
「タッカーおじちゃん、弱い!」
「もう一回!」
「やらん!」
「逃げるの?」
「逃げねぇ!」
「じゃあやる。」
「……。」
結局、もう一回付き合わされる。
少し離れた書棚の陰。
メローペとオーレリアは、その様子を静かに眺めていた。
子どもたちに囲まれ、本気で悔しがる不能部隊の伍長。
それを見て笑う子どもたち。
オーレリアがぽつりと漏らした。
「……楽しそうですね。」
メローペも静かに頷く。
「ええ。」
少しだけ目を細める。
「私。」
「不能部隊の人たちって、もっと近寄り難い人たちだと思っていたわ。」
子どもたちと一緒になって騒ぐ姿を見つめる。
「……私たちと。」
「変わらないのね。」
オーレリアは静かに微笑んだ。
「そうですね。」
二人は、それ以上近付かなかった。
今日の主役は自分たちではない。
情報センターには、子どもたちの笑い声と、
「だから顔に出るなって!」
と叫ぶタッカーの声だけが、いつまでも響いていた。




