飢饉と飢餓③
オーレリアがゆっくり顔を上げた。
「……どうすれば、国は民を飢えさせずに済むの?」
クエスは僅かに間を置いた。
『方法は一つではありません』
『多くの文明が長い年月をかけて様々な対策を講じてきました』
表示が切り替わる。
『第一』
『単一作物へ依存しないこと』
『複数の作物を栽培し、食料生産を分散すること』
『第二』
『痩せた土地でも育つ作物を普及させること』
『地域ごとの気候や土壌に適した作物を選定すること』
『第三』
『病害虫や冷害に強い複数品種を育成すること』
『第四』
『農地改革』
『開墾』
『土地改良』
『灌漑施設の整備』
『排水設備の整備』
『農地の維持管理』
『第五』
『農業技術の向上』
『肥料の利用』
『病害虫対策』
『連作障害の回避』
『輪作および二期作』
『接ぎ木による品種改良』
『相性の良い植物を近接して栽培する農法』
『第六』
『食料備蓄制度の確立』
『第七』
『国内外との交易路を維持すること』
『以上です』
部屋が静まり返る。
オーレリアは小さく息を吐いた。
「……農業って、畑を耕すだけじゃないのね」
『はい』
『農業とは国家事業です』
『作物』
『土壌』
『水』
『技術』
『流通』
『経済』
『外交』
『これら全てが揃って初めて、国民を飢えから守ることができます』
ジゼルが静かに頷いた。
「だから歴史上、どの国も失敗を繰り返しながら発展してきたのね」
『はい』
『飢饉は文明を衰退させました』
『同時に、人類の農業技術を飛躍的に進歩させる契機ともなりました』
オーレリアは表示された資料を見つめる。
「痩せた土地でも育つ作物……」
「具体的には?」
画面が切り替わる。
一枚の植物図が映し出された。
『代表例として、アーダポルがあります』
丸く膨らんだ根菜。
『冷涼地でも栽培可能』
『比較的痩せた土地でも安定した収穫が見込めます』
『保存性にも優れ、飢饉対策作物として各地へ普及しました』
「他には?」
『マイス』
『エイクル』
『リーゼ豆』
『ソルア』
『地域ごとに様々な飢饉対策作物が開発されています』
「一種類じゃないのね」
『はい』
『複数の作物』
『複数の品種』
『これが安定した食料生産には不可欠です』
オーレリアはアーダポルの図を見つめた。
「この村でも栽培しているの?」
『はい』
『アーダポルをはじめ、多くの農作物を栽培しています』
「詳しく教えてもらえる?」
『可能です』
『しかし』
『実際の栽培につきましては、担当者による説明を推奨します』
「担当者?」
少し離れた場所で資料を整理していたエンロが、いつの間にか傍らへ歩み寄っていた。
「そうですね」
穏やかな笑みを浮かべる。
「理論ならクエスですが、実際の畑となると私より詳しい者がいます」
「この村一番の農業家ですよ」
「そんな人がいるの?」
「ええ」
エンロは頷いた。
「ストレップ・マイテンです」
「彼に聞けば、この村の農業は一通り教えてもらえますよ」
オーレリアは小さく頷いた。
「ぜひ、お会いしたいわ」
エンロは苦笑した。
「ええ。ただ……」
「少し癖のある人ですが」
その言葉に、その場の誰もが小さく首を傾げた。




