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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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クエス

白い建物の前で、エンロが足を止めた。


「ここが、ナストロンド情報センターだ。」


近くで見ると、その建物には石積みの継ぎ目らしいものがほとんど見当たらない。


白く滑らかな壁面は朝日に照らされ、静かに光を返していた。


「昨日は中まで見て回る時間がなかったからね。」


「今日はゆっくり案内するよ。」


エンロが扉の前へ立つ。


すると、何かを感知したように扉が左右へ静かに開いた。


「……。」


「……。」


ユーリイとタッカーは思わず顔を見合わせる。


「何度見ても慣れないよね。」


エンロは苦笑しながら建物の中へ入っていった。


二人も後に続く。


建物の中は思っていた以上に広かった。


壁一面には棚が並び、その中央には大きな机のようなものが置かれている。


昨日タッカーが騒いでいた場所らしい。


その時だった。


『おはようございます。』


静かな声が建物の中へ響いた。


ユーリイは思わず辺りを見回す。


誰もいない。


タッカーも同じように首を振った。


「誰だ?」


『管理者エンロを確認しました。』


『情報センターを起動します。』


エンロは天井を見上げながら笑った。


「紹介するよ。」


「この施設の情報管理支援システム。」


「クエスだ。」


『初めまして。』


『私はクエス。』


『ナストロンド情報管理支援システムです。』


『情報センターの利用を支援します。』


「そうだ。」


エンロは二人へ振り返った。


「タッカー君は昨日来ていたね?」


「ああ。」


「パンのレシピ見て騒いでた。」


『確認しました。』


『タッカー・ナークニー。』


『情報センター利用者登録済みです。』


「それなら大丈夫。」


エンロは頷くと、今度はユーリイへ視線を向けた。


「クエス。」


「こちらはユーリイ・シーゲル。」


「情報センター利用者として登録をお願い。」


『了解しました。』


『情報センター利用者登録を開始します。』


次の瞬間。


天井から柔らかな光が降り注ぎ、ユーリイの全身を静かに包み込んだ。


「!」


思わず身構える。


しかし、熱さも痛みも感じない。


光は頭から足先までゆっくりと身体をなぞるように流れ、そのまま静かに消えた。


『登録が完了しました。』


『ユーリイ・シーゲル。』


『情報センター利用者として登録しました。』


『ようこそ。』


『ナストロンド情報センターへ。』


タッカーが目を丸くする。


「……終わりか?」


『はい。』


『情報センターをご利用いただけます。』


ユーリイは自分の身体を見下ろした。


「……今、何をしたんだ?」


「簡単な本人確認さ。」


エンロは穏やかに答える。


「これは情報センターを利用するためだけの登録なんだ。」


「村の住民になったわけでも、特別な権限を与えたわけでもない。」


「ここで知識を調べるための手続きと思ってくれればいい。」


ユーリイは静かに頷いた。


「なるほど。」


『知りたい情報がありましたら、お尋ねください。』


『登録されている情報について回答します。』


『登録されていない情報については、「分かりません」と回答します。』


「何でも教えてくれるのか?」


タッカーが興味津々に尋ねる。


『いいえ。』


『私が回答できるのは、登録されている情報のみです。』


『推測や憶測による回答は行いません。』


「正直な奴だな。」


タッカーが笑う。


「そういうところは昔から変わらない。」


エンロも笑った。


『訂正します。』


『会話応答機能は二千年間で更新されています。』


一瞬の静寂。


そして三人は思わず吹き出した。


「……なるほど。」


ユーリイは小さく笑う。


「少し真面目すぎるみたいだな。」


『ありがとうございます。』


「いや、褒めてる訳じゃないんだけどな。」


タッカーが頭を掻く。


エンロは肩を震わせながら笑った。


「そのやり取りも、きっとすぐ慣れるよ。」


そして建物の奥へ歩き始める。


「さあ。」


「昨日タッカー君が見たのは、この場所のほんの一部に過ぎない。」


「ここには、まだまだ君たちの知らない知識が眠っている。」


ユーリイは白い建物の奥を見つめた。


樹海の奥深く。


誰にも知られず受け継がれてきた二千年の知識。


その世界へ、今まさに足を踏み入れようとしていた。


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