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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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情報センター

翌朝。


朝食を終えたユーリイは、村の広場でエンロと顔を合わせた。


「そうだ、ユーリイ。」


「身体もだいぶ回復したみたいだし、少し面白いところへ行かないか?」


「面白いところ?」


「ああ。」


エンロは笑いながら、少し離れた場所を指差した。


そこではタッカーが子どもたちに囲まれ、身振り手振りで何かを話している。


「そこのタッカー君は、もう十分堪能したみたいだけどね。」


「??」


「何のことだ?」


エンロは首を傾げた。


「うん?」


「さっき、レシピがどうとか言っていただろう?」


「情報センターへ行ったんじゃないのかい?」


「ああ!」


タッカーは思い出したように大きく頷く。


「あそこ情報センターって言うのか!」


「行った、行った!」


「あそこ、すげぇな!」


「パンだけじゃないぞ!」


「ジャムも菓子も、うまそうな料理も山ほど載ってる!」


「昨日は寝るの忘れそうになった!」


「それで朝から騒いでいたのか。」


ユーリイが呆れたように笑う。


「いや、あれは騒ぐぞ!」


「料理人なら一日じゃ足りん!」


「お前、料理人じゃないだろ。」


「料理作るんだから料理人でいいだろがよ。」


「お前が時々作る、あの見た目汚物みたいなやつも料理って言い張るんだな。」


「食えるだろ?」


「確かに見た目は少し悪いけどよ……。」


少しだけ言葉に詰まるタッカーを見て、ユーリイは肩をすくめた。


「……まぁ、味は悪くない。」


「だろ?」


タッカーは勝ち誇ったように胸を張る。


そのやり取りを見ていたエンロは思わず吹き出した。


「ははは。」


「仲がいいんだね。」


「どこがだ。」


「腐れ縁みたいなもんだ。」


「その腐れ縁が命を救ってくれたことも何度もあったけどな。」


タッカーは照れ隠しのように鼻をこすった。


エンロは微笑みながら二人を見つめる。


「安心したよ。」


「こうやって笑い合えるようになったなら。」


少しだけ空気が和らぐ。


エンロは改めて白い建物へ視線を向けた。


「さて。」


「レシピはほんの一部なんだけどね。」


「何にせよ、君はかなり施設を堪能したみたいだ。」


タッカーは首を傾げる。


「え?」


「まだ何かあるのか?」


「もちろん。」


エンロは穏やかに頷いた。


「例えば、医学。」


「農業。」


「鍛冶。」


「建築。」


「歴史。」


「天文学。」


「他にも、この村に残された知識の多くが、あそこへ集められている。」


「もちろん、我々が生まれる遥か昔から受け継がれてきたものもね。」


ユーリイは白い建物を見上げた。


今まで何気なく見ていた建物が、急に違って見える。


「あそこに……そんな知識が。」


「ああ。」


「君たちの世界では、もう失われてしまったものも少なくない。」


エンロは静かに微笑む。


「だからこそ、祖先はここへ残したんだと思う。」


「いつか、必要とする誰かのために。」


ユーリイは黙って建物を見つめていた。


樹海の奥深く。


こんな場所に、自分たちの知らない世界が眠っている。


胸の奥で、小さな好奇心が芽生える。


エンロが歩き出した。


「行こう。」


「ナストロンド情報センターへ。」


ユーリイとタッカーは顔を見合わせ、小さく頷く。


そして三人は並んで、白い建物の大きな扉へと歩き始めた。


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