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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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古代遺跡⑤

ユーリイは村の中をゆっくり歩いていた。


白い建物。


整えられた畑。


静かに流れる水路。


子どもたちの笑い声。


樹海を抜けてきたとは、とても思えない光景だった。


隣をエンロが歩く。


「傷はどう?」


「問題ない。」


「本当に?」


「……多分。」


エンロは苦笑した。


「『多分』は医者泣かせだな。」


ユーリイが少し首を傾げる。


「医者だったのか。」


「うん。」


「人を診ることが多いけど、時々動物も診るよ。」


「この村にも家畜はいるからね。」


「生き物っていうのは、人も動物も意外と共通点が多いんだ。」


ユーリイは小さく頷く。


二人はまた歩き始めた。


しばらく沈黙が続く。


やがてユーリイが口を開く。


「……君たちは。」


「戦わないのか。」


エンロは少し考えた。


「君たちの言うような戦いは、したことはないかな。」


穏やかな声だった。


「でも、生きていく以上、毎日何かとは戦っているよ。」


「自然だったり。」


「病気だったり。」


「畑だったり。」


「こんな発達した施設で暮らしていても、それは変わらない。」


少し照れくさそうに笑う。


「昨日なんて、子どもたちが泥だらけになって帰ってきてね。」


「一日中、汚れたシャツやパンツとの格闘だった。」


ユーリイの口元が少し緩む。


エンロもつられて笑った。


「ああ、そうそう。」


「でも狩りはしたことがあるよ。」


「昨日、君たちが食べた豚。」


「あれは私が狩ってきたんだ。」


「狩りもするのか。」


「もちろん。」


「畑だけじゃ食卓は少し寂しいからね。」


「森の恵みもいただく。」


「私たちも生きていかなきゃいけない。」


「命をいただく以上、ちゃんと感謝もしなきゃいけない。」


ユーリイは何も言わなかった。


その言葉は、とても自然に聞こえた。


二人は畑の横を歩いていく。


その時だった。


「エンロー!」


元気な声が響く。


小さな男の子が走ってきた。


両腕いっぱいに赤い果実を抱えている。


「見て!」


「採れた!」


「おお。」


エンロが目を細める。


「今年もいい出来だ。」


男の子は嬉しそうに笑った。


そこでようやくユーリイに気付く。


「あっ。」


「こんにちは。」


「……こんにちは。」


男の子は少し迷ったあと、抱えていた果実を一つ差し出した。


「どうぞ。」


「え?」


「お客さんだから。」


ユーリイは戸惑う。


「いいのか?」


「うん!」


「いっぱいあるから!」


エンロが笑う。


「遠慮しなくていい。」


「この村ではね。」


「最初に収穫した実を、お客さんへ分ける習慣があるんだ。」


「祖先から続いている。」


ユーリイは果実を受け取る。


まだほんのりと温かかった。


「……ありがとう。」


男の子は照れくさそうに笑うと、また畑へ駆けて行った。


その後ろ姿を見送りながら、ユーリイがぽつりと呟く。


「……不思議だな。」


「何が?」


「ここへ来るまで。」


「毎日、人が死んでいた。」


「なのに。」


「ここでは子どもが笑ってる。」


エンロは少しだけ空を見上げた。


「だから。」


「僕たちの祖先は、ここを造ったんだと思う。」


「戦うためじゃない。」


「生きるためにね。」


風が畑を渡る。


麦が静かに揺れた。


その音だけが、二人の間をゆっくりと流れていった。


皆様の応援が、執筆の力になります。

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