表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/139

古代遺跡④

「……驚いたかい?」


エンロが静かに尋ねる。


ユーリイはしばらく答えなかった。


目の前には畑がある。


水路が流れている。


女たちが収穫した野菜を籠へ入れ、子どもたちがその横を走り回る。


遠くでは笑い声が聞こえた。


「……村だ。」


ようやく、それだけ口にした。


「そう。」


エンロは穏やかに笑う。


「私たちはここで暮らしている。」


「何百年もね。」


ユーリイが振り向く。


「何百年?」


「正確には、私たちの祖先が、かな。」


「私たちはその子孫だ。」


聞きたいことは山ほどあった。


だが、何から聞けばいいのか分からない。


その時だった。


「エンロ。」


オルヴィが歩いてくる。


「みんな集まり始めてるわ。」


「そうか。」


エンロが頷く。


「重傷だった人たちも意識が戻った。」


その言葉に、ユーリイは思わず一歩前へ出る。


「……全員か?」


オルヴィは優しく微笑んだ。


「ええ。」


「まだ歩けない人もいるけれど、命に別状はないわ。」


その一言だけで十分だった。


ナターシャの最後が脳裏をよぎる。


救えなかった命。


それでも――


ここまで辿り着いた者たちは、生きている。


「案内するよ。」


エンロが歩き出す。


村人たちは、すれ違いざまに軽く会釈した。


「おはよう、エンロ。」


「その人が?」


「うん。」


「目を覚ましたんだね。」


「よかった。」


誰も騒がない。


英雄を見る目でもない。


不能者を見る目でもない。


ただ、一人の来客を迎えるような、穏やかな眼差しだった。


ユーリイは少し居心地悪そうに頭を下げる。


「……どうも。」


一人の老人が笑う。


「そんなに固くならなくていい。」


「ここでは、貴族も奴隷もいない。」


「皆、ただの村人だ。」


老人は畑の方へ目を向ける。


「あそこで野菜を育てる者もいれば、医療を担う者もいる。」


「村をまとめる責任者もいる。」


「役割は違う。」


「それだけだ。」


ユーリイは何も言えなかった。


エンロが苦笑する。


「そうそう。」


「あの綺麗なお嬢さん。」


「君たちの国の王女様なんだってね。」


「……知っているのか。」


「もちろん。」


エンロは肩をすくめた。


「王政や貴族制度があることくらいは、昔の記録にも残っている。」


「私たちにはない、というだけさ。」


「良い悪いの話じゃない。」


「君たちは君たちの社会で生きてきた。」


「私たちは私たちの社会で生きてきた。」


「ただ、それだけだよ。」


ユーリイはその言葉を噛みしめる。


軍も。


王都も。


不能者部隊も。


そのどれとも違う価値観が、この村にはあった。


やがて、大きな建物の前で足が止まる。


「ここだ。」


エンロが扉を開く。


部屋の中から聞き慣れた声が響いた。


「ユーリイ!」


振り向いたのはタッカーだった。


その瞬間、部屋中の視線が一斉にユーリイへ向く。


メローペ。


マルグリット。


オーレリア。


クレール。


リナ。


ミークニー。


そして、生き残った仲間たち。


誰一人欠けてはいなかった。


ユーリイは入口で立ち止まり、小さく笑う。


「……みんな、生きてたか。」


誰かが笑い、


誰かが泣き、


誰かは黙って拳を握る。


それだけで十分だった。


皆様の応援が、執筆の力になります。

ブックマーク登録と評価の方よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ