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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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古代遺跡③

ユーリイは、ゆっくりと立ち上がった。


足元が少しふらつく。


だが、歩ける。


信じられないほど身体が軽かった。


エンロが微笑む。


「無理はしないで。」


「まだ完全ではないからね。」


ユーリイは小さく頷いた。


部屋を出る。


扉は音もなく左右へ開いた。


思わず足が止まる。


「……。」


「驚いた?」


「……いや。」


正直に言えば驚いていた。


だが、それを口にはしなかった。


長い廊下。


白い壁。


継ぎ目のほとんどない床。


窓は見当たらない。


それなのに明るい。


灯火もない。


松明も、油皿も。


何もない。


「どうして……。」


思わず漏れた呟き。


エンロは天井を見上げた。


「光だよ。」


「……光?」


「昔の技術さ。」


それ以上は説明しない。


説明しても理解できないと思ったのだろう。


やがて廊下の先から笑い声が聞こえてきた。


小さな子どもが二人。


廊下を駆けてくる。


「あっ、エンロ!」


「おはよう!」


「おはよう。」


エンロが穏やかに手を振る。


子どもたちはユーリイを見る。


大きな目を丸くした。


「この人?」


「うん。」


「お客さんだよ。」


「ふーん。」


興味津々といった様子で見つめる。


だが、それだけだった。


怖がることもない。


英雄を見る目でもない。


不能者を見る目でもない。


ただ、


**知らない人**を見る子どもの目だった。


「……。」


ユーリイは言葉を失う。


こんな目で見られたのは、いつ以来だろう。


「こんにちは。」


一人の少女が小さく頭を下げた。


もう一人も慌てて真似をする。


「こ、こんにちは。」


ユーリイは少しだけ戸惑いながら、


「……こんにちは。」


と返した。


二人は嬉しそうに笑い、


また廊下の向こうへ駆けていった。


その姿を見送りながら、


ユーリイはぽつりと呟く。


「普通の……子どもだ。」


エンロは静かに頷いた。


「そうだよ。」


「ここでは、皆ただの村人だ。」


しばらく歩く。


やがて視界が開けた。


大きな空間。


高い天井。


緑。


木々。


畑。


水路。


小さな家々。


人々が働いている。


笑い声が聞こえる。


子どもたちが走り回る。


老人が椅子に腰掛けて談笑している。


どこにでもありそうな、


穏やかな村だった。


ユーリイは立ち尽くす。


ここへ来るまで見てきたもの。


泥。


血。


銃声。


悲鳴。


仲間の死。


そのすべてが嘘だったかのように、


目の前には静かな日常が広がっていた。


「……ここが。」


エンロはユーリイの横に並び、


穏やかな笑みを浮かべる。


「私たちの故郷。」


「ナストロンドだ。」


ユーリイは何も答えられなかった。


ただ、その光景を見つめ続けていた。


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