古代遺跡②
ユーリイは、ゆっくりと上半身を起こした。
身体は重い。
だが、不思議だった。
樹海で感じていた激痛がない。
折れたはずの肋骨。
裂けた肩。
泥と血にまみれていた全身。
その痛みが、ほとんど消えている。
「……何をした。」
エンロは苦笑した。
「治療だよ。」
「君たちは全員、かなり危険な状態だった。」
「あと半日遅ければ、何人かは助からなかっただろうね。」
ユーリイは黙って自分の腕を見る。
包帯は巻かれていない。
縫合の跡もない。
古傷だけが残っている。
「信じられないかい?」
「……当然だ。」
「そうだろうね。」
エンロは否定しなかった。
「でも、それが事実なんだ。」
「ここには、君たちの世界では失われた医療技術が残っている。」
静かな口調だった。
自慢する様子もない。
事実を説明しているだけ。
「皆は?」
「それぞれ治療中だ。」
「軽傷者はもう目を覚ましている。」
「重傷者は、もう少しかかるかな。」
「クレール少尉は!」
思わず身を乗り出す。
胸が痛む。
だが、それでも聞かずにはいられない。
エンロは穏やかに頷いた。
「彼女も生きている。」
「安心するといい。」
「治療は順調だ。」
その言葉に、ユーリイは深く息を吐いた。
肩の力が抜ける。
ナターシャの最後が頭をよぎる。
振り払うように目を閉じた。
エンロは、その様子を静かに見つめていた。
やがて口を開く。
「今日は休みたまえ。」
「質問は山ほどあるだろう。」
「こちらにも、君たちに聞きたいことがある。」
「だが、それは全員が目を覚ましてからで十分だ。」
ユーリイは小さく頷いた。
その時だった。
部屋の奥から、軽やかな足音が響く。
「エンロ。」
澄んだ声。
白い衣をまとった女性が姿を現した。
歳はエンロと同じくらいに見える。
長い髪を後ろで束ね、手には薄い板のようなものを持っていた。
「第二治療区の処置が終わったわ。」
「重傷者三名、生命徴候安定。」
エンロが微笑む。
「ありがとう、オルヴィ。」
女性――オルヴィは、小さく頷くとユーリイへ視線を向けた。
その瞳には興味と安堵が入り混じっていた。
「この人が?」
「ああ。」
「最後まで立っていた子だよ。」
オルヴィは少しだけ目を丸くし、
それから優しく笑った。
「初めまして、ユーリイ・シーゲル。」
「ここへようこそ。」
「――私たちの村へ。」
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