不帰の樹海㊻
角笛が樹海に響く。
一度。
二度。
三度。
「本隊か……!」
クレールが剣を抜く。
「迎え撃つ! 王女殿下を中央へ!」
近衛がすぐにメローペを囲む。
その周囲を不能部隊と救援部隊が固めた。
木々の間から敵兵が姿を現す。
一人。
二人。
五人。
十人。
まだ続く。
「いたぞ!」
「王女だ!」
怒号が樹海を震わせる。
「来るぞ!」
剣がぶつかる。
槍が突き出される。
雨で滑る足場。
互いに思うようには動けない。
それでも敵は数で押してきた。
ユーリイは短剣を抜く。
正面の敵兵へ踏み込む。
一人。
返す刃で二人目。
三人目が斬りかかる。
横からクレールの剣が弾いた。
「前だけ見ろ!」
「了解!」
短い言葉だけで十分だった。
戦場では説明はいらない。
後方。
ナターシャが弓を引く。
放つ。
敵兵の肩へ矢が突き刺さる。
すぐに二本目。
三本目。
矢筒はもう半分以下だった。
「左だ!」
ロスリーが叫ぶ。
イツォーが飛び込み、敵を押し返す。
その隙にアンが負傷兵を後方へ引きずった。
戦線は何とか保たれていた。
その時だった。
一人の敵兵が倒木を回り込み、王女の背後へ走る。
「殿下!」
オーレリアが振り返る。
間に合わない。
ナターシャが動いた。
弓を投げ捨てる。
短剣を抜く。
敵兵へ体当たりするように飛び込んだ。
刃が交わる。
鈍い音。
敵兵の剣がナターシャの脇腹を深く裂いた。
それでもナターシャは止まらない。
短剣を突き立てる。
敵兵は崩れ落ちた。
「ナターシャ!」
ロスリーが駆け寄る。
ユーリイも飛び込む。
ミークニーが膝をつく。
傷を見る。
血は止まらない。
ナターシャは小さく息を吐いた。
「……殿下は。」
「ご無事だ。」
ロスリーが答える。
ナターシャは安心したように目を閉じかける。
「よかった……。」
ミークニーは静かに首を振った。
ユーリイは傷口を押さえ続ける。
諦めない。
最後まで。
それが自分の役目だった。
遠くで再び角笛が鳴る。
敵はまだ来る。
雨は止まない。
そして誰も、その場を離れることができなかった。
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