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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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117/125

不帰の樹海㊺

煙の匂いは次第に濃くなっていた。


誰も口を開かない。


ユーリイは手を上げる。


列が止まる。


前方には木々の隙間。


その向こうで、かすかに炎が揺れていた。


野営地。


人数は分からない。


「俺が見る。」


ユーリイは身を低くした。


「待て。」


クレールが止める。


「一人で行くな。」


「気付かれたら終わりだ。」


「だからです。」


二人は一瞬だけ視線を合わせた。


「……イツォー。」


「分かってる。」


二人は左右へ散る。


音が消えた。


まるで森へ溶け込んだようだった。


残された者たちは息を潜める。


時間だけが過ぎる。


やがて。


小鳥が一羽飛び立った。


続いて反対側から。


もう一羽。


ユーリイは小さく頷く。


合図だった。


敵は少数。


見張りだけ。


ゆっくり前へ進む。


十歩。


二十歩。


木々の間から見えた。


兵士が四人。


焚き火を囲んでいる。


鎧は泥に汚れ。


疲労は隠せない。


こちらと同じだった。


「……。」


ユーリイは短剣へ手を掛ける。


その時だった。


一人の兵士が立ち上がる。


森の方を向いた。


「誰だ!」


声が響く。


しまった。


ユーリイが動く。


同時だった。


「敵襲!」


叫び声。


四人が武器を取る。


「前へ!」


クレールの号令が飛ぶ。


近衛。


不能部隊。


救援部隊。


一斉に飛び出した。


金属がぶつかる。


剣が火花を散らす。


一人。


また一人。


狭い樹海では隊形など意味がない。


目の前の敵を倒すだけ。


ユーリイの短剣が喉元へ走る。


敵兵が崩れ落ちる。


その背後からもう一人。


剣が振り下ろされた。


ガンッ!


クレールの剣が受け止める。


「油断するな!」


「助かります。」


「礼は帰ってから聞く!」


二人は背中合わせになる。


戦場では、それだけで十分だった。


その時。


樹海の奥から角笛が鳴り響いた。


一度。


二度。


三度。


ユーリイの表情が変わる。


「まずい……。」


見張りだけではなかった。


本隊が近い。


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