不帰の樹海㊺
煙の匂いは次第に濃くなっていた。
誰も口を開かない。
ユーリイは手を上げる。
列が止まる。
前方には木々の隙間。
その向こうで、かすかに炎が揺れていた。
野営地。
人数は分からない。
「俺が見る。」
ユーリイは身を低くした。
「待て。」
クレールが止める。
「一人で行くな。」
「気付かれたら終わりだ。」
「だからです。」
二人は一瞬だけ視線を合わせた。
「……イツォー。」
「分かってる。」
二人は左右へ散る。
音が消えた。
まるで森へ溶け込んだようだった。
残された者たちは息を潜める。
時間だけが過ぎる。
やがて。
小鳥が一羽飛び立った。
続いて反対側から。
もう一羽。
ユーリイは小さく頷く。
合図だった。
敵は少数。
見張りだけ。
ゆっくり前へ進む。
十歩。
二十歩。
木々の間から見えた。
兵士が四人。
焚き火を囲んでいる。
鎧は泥に汚れ。
疲労は隠せない。
こちらと同じだった。
「……。」
ユーリイは短剣へ手を掛ける。
その時だった。
一人の兵士が立ち上がる。
森の方を向いた。
「誰だ!」
声が響く。
しまった。
ユーリイが動く。
同時だった。
「敵襲!」
叫び声。
四人が武器を取る。
「前へ!」
クレールの号令が飛ぶ。
近衛。
不能部隊。
救援部隊。
一斉に飛び出した。
金属がぶつかる。
剣が火花を散らす。
一人。
また一人。
狭い樹海では隊形など意味がない。
目の前の敵を倒すだけ。
ユーリイの短剣が喉元へ走る。
敵兵が崩れ落ちる。
その背後からもう一人。
剣が振り下ろされた。
ガンッ!
クレールの剣が受け止める。
「油断するな!」
「助かります。」
「礼は帰ってから聞く!」
二人は背中合わせになる。
戦場では、それだけで十分だった。
その時。
樹海の奥から角笛が鳴り響いた。
一度。
二度。
三度。
ユーリイの表情が変わる。
「まずい……。」
見張りだけではなかった。
本隊が近い。
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