表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/126

不帰の樹海㊹

雨は少しだけ弱くなっていた。


それでも空は暗い。


湿った空気が樹海を覆っている。


列は黙って進んだ。


昨日よりさらに遅い。


誰も急げない。


急げば倒れる。


倒れれば置いていくしかない。


そんな行軍だった。


先頭を歩くユーリイが足を止める。


握った拳を静かに上げた。


列が止まる。


全員がその場でしゃがみ込んだ。


音を立てない。


呼吸すら押し殺す。


イツォーが地面へ視線を落とした。


泥の上に残る跡。


人の足跡だった。


新しい。


「……いるな」


誰かが小さく呟く。


ユーリイは頷いた。


「昨日のものじゃない」


膝をつき、泥へ触れる。


雨で流されきっていない。


つい先ほど付いた跡だ。


人数までは分からない。


だが一人ではない。


タッカーも覗き込む。


「追ってるのか」


「分からない」


ユーリイは立ち上がる。


「だが人間だ」


狼より厄介だった。


考える。


待ち伏せる。


罠を張る。


人はそういう生き物だ。


クレールが静かに前へ出る。


「王女殿下」


メローペは小さく頷いた。


近衛たちが自然に周囲を固める。


剣を抜く者はいない。


まだ早い。


気配だけを消す。


「進む」


ユーリイの一言で列が再び動き始めた。


足音はさらに小さくなる。


枝を踏まない。


不用意に葉を揺らさない。


誰も教えられてはいない。


それでも生き残った者たちは自然とそうしていた。


しばらく歩いた頃だった。


イツォーが立ち止まる。


鼻を鳴らした。


「煙だ」


全員の表情が変わる。


雨の樹海で煙。


焚き火。


つまり――


「人がいる」


ユーリイは低く言った。


風は弱い。


煙の量も多くない。


野営か。


それとも見張りか。


誰も口を開かない。


ユーリイはクレールを見る。


クレールも頷く。


互いに考えていることは同じだった。


敵が動き始めた。


こちらも、もう隠れて歩くだけでは済まない。


樹海は静かだった。


静かすぎた。


皆様の応援が、執筆の力になります。

ブックマーク登録と評価の方よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ