不帰の樹海㊷
雨は止まなかった。
狼の死体が並んでいる。
タッカーが短刀を差し込んだ。
皮を剥ぐ。
その隣でモーリス・マスが骨から肉を外していく。
肉を切り分ける。
血の臭いが広がった。
「食うのか?」
救援部隊の兵士が顔をしかめる。
「文句があるなら食わないで良いぞ」
タッカーは手を止めない。
「旨くないぞ」
隣でイツォーが鼻を鳴らした。
「知ってる」
「硬いし臭いし」
「狼だからな」
モーリスが肉を抱えて立ち上がる。
「それでも腹は膨れる」
誰も反論しなかった。
少し離れた場所ではミークニーが負傷兵を見ていた。
熱がある。
傷口も良くない。
「薬は」
誰かが聞いた。
ミークニーは答えない。
ない。
そんな物は最初からない。
その時だった。
茂みが揺れる。
両腕いっぱいに植物を抱えたイツォーが現れた。
「ミークニー」
衛生兵が顔を上げる。
「血を止めてやってくれ」
イツォーは細い蔓を差し出した。
続いて葉の付いた植物を置く。
「アン」
アン・ピノーが振り返る。
「何だ」
「あっちにコメリンとボックスソーンがあった」
イツォーは森の奥を指差した。
「取ってきて煎じてやってくれ」
アンは頷く。
「分かった」
迷いはなかった。
足早に森へ消える。
ミークニーは植物を見た。
「効くのか」
「知らん」
イツォーは肩を竦める。
「村じゃ使ってた」
ミークニーは少しだけ考えた。
そして頷く。
「やる」
他に方法はなかった。
夜になる。
狼肉を焼く臭いが漂う。
熱にうなされる者もいる。
眠ったまま動かない者もいる。
その夜
二人の熱は下がった。
だが全員ではない。
夜明け前
二人が息を引き取った。
誰も何も言わなかった。
雨だけが降り続いていた。




