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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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114/130

不帰の樹海㊷

雨は止まなかった。


狼の死体が並んでいる。


タッカーが短刀を差し込んだ。


皮を剥ぐ。


その隣でモーリス・マスが骨から肉を外していく。


肉を切り分ける。


血の臭いが広がった。


「食うのか?」


救援部隊の兵士が顔をしかめる。


「文句があるなら食わないで良いぞ」


タッカーは手を止めない。


「旨くないぞ」


隣でイツォーが鼻を鳴らした。


「知ってる」


「硬いし臭いし」


「狼だからな」


モーリスが肉を抱えて立ち上がる。


「それでも腹は膨れる」


誰も反論しなかった。


少し離れた場所ではミークニーが負傷兵を見ていた。


熱がある。


傷口も良くない。


「薬は」


誰かが聞いた。


ミークニーは答えない。


ない。


そんな物は最初からない。


その時だった。


茂みが揺れる。


両腕いっぱいに植物を抱えたイツォーが現れた。


「ミークニー」


衛生兵が顔を上げる。


「血を止めてやってくれ」


イツォーは細い蔓を差し出した。


続いて葉の付いた植物を置く。


「アン」


アン・ピノーが振り返る。


「何だ」


「あっちにコメリンとボックスソーンがあった」


イツォーは森の奥を指差した。


「取ってきて煎じてやってくれ」


アンは頷く。


「分かった」


迷いはなかった。


足早に森へ消える。


ミークニーは植物を見た。


「効くのか」


「知らん」


イツォーは肩を竦める。


「村じゃ使ってた」


ミークニーは少しだけ考えた。


そして頷く。


「やる」


他に方法はなかった。


夜になる。


狼肉を焼く臭いが漂う。


熱にうなされる者もいる。


眠ったまま動かない者もいる。


その夜


二人の熱は下がった。


だが全員ではない。


夜明け前


二人が息を引き取った。


誰も何も言わなかった。


雨だけが降り続いていた。


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