不帰の樹海㊱
久しぶりのまともな食事だった。
焚き火の周囲には魚の焼ける香りが漂っている。
誰もが無言だった。
喋る余裕が無いのではない。
食べることに集中していた。
それほど空腹だった。
クレールは焼き魚を一口齧る。
味付けなど無い。
だが驚くほど美味かった。
向かいではジゼルが木の実を口へ運んでいる。
先ほどまで警戒していたのが嘘のようだった。
その時だった。
ふと。
クレールの視線が止まる。
焚き火の向こう。
魚を捌いている男の腕だった。
袖が捲れている。
そこには認証番号。
そして。
その上から刻まれた焼印。
クレールは眉をひそめた。
視線を移す。
別の男。
その男にもあった。
さらに別の男。
やはり同じ。
偶然ではない。
ユーリイ。
タッカー。
マース。
イツォ。
そして周囲の男達。
全員が。
先頭の男と同じ利き腕の番号の上に刻まれた印を持っていた。
聞いたことがある。
士官学校時代。
酒席で語られる噂話。
王国には男だけが所属する部隊があると。
不能者だけを集めた部隊があると。
誰も本気にはしていなかった。
都市伝説。
あるいは士官学校の怪談。
その程度だった。
だが。
目の前にいる。
実在している。
クレールは黙って男達を観察する。
もっと荒んだ集団だと思っていた。
粗暴で。
投げやりで。
生きることを諦めた人間達だと。
だが違った。
タッカーは年少者へ食料を回している。
マースは刃物の手入れをしている。
イツォは相変わらず木の実の説明をしていた。
誰かが笑う。
誰かが文句を言う。
誰かがそれを聞いて笑う。
そこにいたのは。
ただの兵士達だった。
クレールは小さく息を吐く。
「どうした?」
隣から声がした。
メローペだった。
「いえ」
クレールは少し考える。
そして正直に答えた。
「思っていたのと違いました」
メローペは焚き火の向こうを見る。
ユーリイ達もまた食事をしていた。
「私もだ」
短い返事だった。
しばらく沈黙が続く。
焚き火がぱちりと音を立てる。
「だが」
メローペが静かに続けた。
「彼らがいなければ」
その先は言わなかった。
言う必要もなかった。
桃。
蛙。
魚。
木の実。
ほんの少しの知識。
だが。
その差はあまりにも大きかった。
クレールは黙って頷く。
もし彼らと出会わなければ。
自分達はどうなっていただろう。
考えたくもなかった。
焚き火の炎が揺れる。
樹海の夜はまだ長い。
だが。
少なくとも今夜だけは。
生き延びられそうだった。




