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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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不帰の樹海㉟

男たちが加わって総員五十三名となった。


焚き火の周囲には香ばしい匂いが漂っていた。


魚。


蛇。


蛙。


そして木の実。


樹海に迷い込んで以来。


王女一行が初めて嗅ぐまともな食べ物の匂いだった。


腹が鳴る。


今度は誰も笑わない。


ジゼルだけではない。


クレールも。


マルグリットも。


オーレリアも。


全員が限界だった。


タッカーが焼き上がった魚を取り上げる。


「熱いぞ」


そう言って近くの石へ並べていく。


イツォは木の実を選り分けていた。


「こっちはそのまま食えるっす」


「こっちは焼いた方が美味いっす」


誰も手を伸ばさない。


正確には。


伸ばせなかった。


三日前。


桃で二人死んだ。


蛙で三人死んだ。


食べることが怖くなっていた。


その時だった。


メローペが一歩前へ出る。


「殿下」


オーレリアが制止しようとする。


だが。


メローペは首を振った。


「よい」


そして。


イツォが差し出した小さな実を手に取る。


毒々しい色だった。


少なくとも美味しそうには見えない。


「殿下!」


マルグリットが声を上げる。


「危険です!」


「かもしれぬな」


メローペは答えた。


そして。


迷わず口へ運ぶ。


全員が息を呑んだ。


数秒。


十秒。


二十秒。


何も起こらない。


メローペはもう一つ口に入れた。


「……甘いな」


イツォが嬉しそうに頷く。


「美味いっすよね」


「うむ」


その言葉で。


張り詰めていた空気が少し緩んだ。


ジゼルが恐る恐る手を伸ばす。


木の実を一つ。


口へ入れる。


「……」


沈黙。


「どうだ?」


クレールが尋ねる。


ジゼルはゆっくりと顔を上げた。


「美味しいです」


その瞬間だった。


近衛達が一斉に木の実へ手を伸ばした。


イツォが慌てる。


「あっ!」


全員が固まる。


「それ焼いてないっす」


沈黙。


近衛達の手が止まる。


イツォは別の籠を指差した。


「そっちっす」


タッカーが吹き出した。


ユーリイも思わず笑う。


マルグリットは顔を真っ赤にした。


「まぎらわしい!」


「だから説明しようとしてたっす」


焚き火の周囲に笑いが広がる。


ほんの僅かだったが。


それは樹海へ入って以来初めての笑いだった。


総員三十二名。


二つの部隊はようやく食事を始めた。


そして誰もまだ知らない。


これが。


樹海で過ごす最後の穏やかな夜の一つになることを。


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