不帰の樹海㉝
総員三十二名。
沈黙が続いていた。
「覚えていない」
クレールの言葉は重かった。
冗談ではない。
誰も笑わない。
ユーリイはしばらく考えた後、小さく息を吐いた。
「タッカー」
「おう」
「飯」
その一言だった。
クレールが眉をひそめる。
タッカーは当然のように立ち上がった。
「分かった」
そして近くに積んであった荷物を漁り始める。
近衛達の視線が集まる。
袋。
皮袋。
籠。
次々と出てくる。
ジゼルが目を瞬かせた。
思ったより多い。
いや。
かなり多い。
「おいイツォ」
タッカーが声を掛ける。
「魚まだ残ってるか?」
「あるっす」
「蛙は?」
「あるっす」
「蛇は?」
「あるっす」
クレール達が固まる。
タッカーは平然としていた。
「焼くぞ」
「了解っす」
イツォが慣れた手つきで焚き火へ向かう。
その様子を見ながら。
マルグリットが思わず口を開いた。
「待て」
全員が振り向く。
「貴様ら」
少し言葉を探す。
「何を食べていたのだ?」
イツォが不思議そうな顔をした。
「魚っす」
「他は?」
「蛙っす」
「他は?」
「蛇っす」
「他は?」
「木の実っす」
「他は?」
「根っこっす」
「他は?」
「虫っす」
マルグリットが黙った。
イツォも黙った。
数秒後。
「食えるもの全部っすね」
と結論を出した。
タッカーが吹き出した。
クレールは頭を押さえた。
そして。
初めて気付く。
彼女達は遭難していた。
だが。
目の前の男達も同じはずだった。
同じ森。
同じ時間。
同じ戦場。
なのに。
何故ここまで差が出たのか。
その時だった。
ジゼルが小さく呟く。
「そんなもの……本当に食べられるのですか?」
イツォが首を傾げた。
「食えるっすよ?」
当たり前のように答える。
「毒は?」
「あります」
ジゼルの顔色が変わる。
「あります?」
「あるっす」
イツォは頷いた。
「だから毒腺取るんす」
その言葉で。
クレール達は顔を見合わせた。
蛙。
三日前。
三人死亡。
誰も何も言わなかった。
言えなかった。
ユーリイはその空気に気付いたらしい。
「……何かあったんですか?」
クレールはしばらく黙っていた。
やがて静かに答える。
「蛙を食べた」
イツォの表情が固まる。
「毒腺は?」
誰も答えない。
イツォは天を仰いだ。
「取ってないっすね……」
総員三十二名。
二つの部隊は。
同じ樹海を歩いていた。
だが。
生きるための知識には大きな差があった。




