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捨てられた令嬢は隣の貧乏帝国を買い取る 〜身勝手な婚約破棄、一パーセントの誤差もなく差し押さえますわ〜  作者: 冷泉院 麗華


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第9話:金貨が奏でる、魔力の旋律

「……まあ。これを『手紙』と呼ぶには、いささか情緒が過ぎるのではなくて?」


 帝国の皇宮、陽光が差し込む優雅なテラス。わたくし――セラフィナ・フォン・アストレアは、銀のトレイに乗せられた一通の書状を、薬指で軽く弾きました。

 差出人はアルカディア王国、王太子ジュリアン。

 封蝋は歪み、紙面には涙の跡か、あるいは血の跡か、不潔な染みがいくつも浮かんでいます。


「読みましょうか、お嬢様? それとも、このまま焼却処分に?」

「いいえ、マリアンヌ。敵がどの程度の『知能』を維持しているか測るのも、投資家としての勤めですわ。読み上げてちょうだい」


 マリアンヌが事務的な、しかしどこか嘲るような声で朗読を始めます。


『愛するセラフィナへ。……君がいなくなってから、この国は闇に包まれた。魔物が溢れ、民は飢え、エラも心労で倒れかけている。君の言っていた「数字」の大切さが、今なら痛いほど分かる。どうか、僕たちの愛を免じて助けてほしい。君が望むなら、婚約破棄も撤回し、君を正妃として迎えよう。……君の愛したアルカディアを、共に救ってくれ』


 わたくしは、口に含んだ最高級の紅茶を危うく吹き出すところでしたわ。

 おーっほっほっほ! 素晴らしい! これほどまでに見事な「無価値」を、わたくしは他に知りませんわ!


「マリアンヌ、ペンを。……ええ、赤色のものを」


 わたくしは手紙をひったくると、容赦なくその文面にインクを走らせました。


「まず、冒頭の『愛する』。不快ですわ。マイナス一万点。次に『婚約破棄の撤回』。わたくしを何だと思っていらっしゃるの? 一度損切りした銘柄を、暴落した後に買い戻す投資家はいませんわ。そして極めつけは『君の愛したアルカディア』……。わたくしが愛したのは、この国の『効率的な税収システム』であって、今の泥舟ではありませんわ」


 わたくしは手紙の余白に大きく『査定不能:ゴミ箱行き』と書き込み、トレイに放り捨てました。


「セラフィナ殿。その顔を見る限り、交渉は決裂のようだな」


 いつの間にかテラスに現れたアルリック陛下が、楽しげに目を細めていました。

 彼はわたくしが提供した、フェルム製の精霊鋼で補強された軽装鎧を纏っています。


「交渉などという高尚なものではありませんわ、陛下。ただの、破産した債務者の泣き言ですもの。……それより、陛下。先ほどの陛下からの『送金』、受け取りましたわ」


 わたくしは、机の上に置かれた一枚の金貨を手に取りました。

 指先で転がすと、キィン、という、他の金貨とは明らかに異なる高周波の音が響きます。

 

 わたくしの「絶対金感」が、その音に隠された『魔力の波形』を完璧に解析しました。

 この金貨には、通常の流通貨幣にはありえないほどの、高密度な「世界樹の魔力」が封入されている。


「……やはり、そうですわね。陛下、この世界の『ゴールド』は、ただの通貨ではありません。これは、世界中の魔力を安定させるための『おもり』……あるいは『鍵』ですわ」


 アルリック陛下が、鋭い瞳でわたくしを見つめました。


「気づいたか。我が国の地下にフェルムが封じられていたのも、かつてのヴァレンシュタインが、その魔力の流れを管理する『金庫守』だったからだ。……だが、今その旋律が狂っている」


「ええ。王国の聖女エラ様が、土地の魔力をパンという名の『偽造通貨』に変えてバラ撒いたせいで、魔力のインフレが起きていますわ。結果、結界という名の『防衛資産』が崩壊した。……すべては計算通りですわね」


 わたくしは金貨を机に叩きつけました。

 澄んだ音が、テラスに響き渡ります。


「陛下。わたくし、決めましたわ。あちらの国、一度『法的整理』にかける必要がありますわね」


「……行くのか?」


「ええ。救いに行くのではありませんわ。わたくしが十年間、一パーセントの誤差もなく育て上げたあの国の『インフラ』と『人材』。それらをすべて差し押さえ、わたくしの管理下に置くため……いわゆる『M&A(合併買収)』ですわ」


 マリアンヌが静かに、しかし激しい狂気を孕んだ微笑みを浮かべて跪きました。


「お嬢様、準備は整っております。帝国の新造騎士団、ならびにCEOフェルムの演算回路、すべてお嬢様の指揮下に。……王国の愚か者たちに、真の『独占禁止法』を教えて差し上げましょう」


「よろしい。……行きましょうか。わたくしを捨てた代償、最後の一銭まで、いのちという名の複利をつけて徴収して差し上げますわ」


 わたくしは、新しい、漆黒の帳簿を手に取りました。

 表紙にはまだ、何も書かれていません。

 ですが、わたくしには聞こえるのです。

 

 もうすぐ、王都アルカディアに響き渡るであろう――「破産」という名の、最も美しい旋律が。

最後までお読みいただき、ありがとうございますわ。

王子の泣き言を赤ペンで添削するセラフィナ様……。

「婚約破棄を撤回してやる」という、地獄のような上から目線への完璧な回答、スカっとしていただけましたかしら?


ついに明かされ始めた、この世界の「金貨」の正体。

そして、セラフィナ様はついに、王国を「買い取る」ために動き出しますわ。


次回、第10話「完結感:未完感の黄金比……あら、失礼。第10話『王国解体ショーの始まりですわ』」。

第1部のクライマックス、セラフィナ様が帝国の精鋭を引き連れ、魔物溢れる王都へ「差し押さえ」に降臨いたしますわ。


もし「王子の手紙を破り捨てるところ、最高だったわ!」と思ってくださったなら、ぜひブックマークを!

そして、下の【☆☆☆☆☆】を、セラフィナ様が手に持つ最高級の金貨のように光り輝く【★★★★★】にしてくださると、わたくしの執筆魔力がストップ高まで跳ね上がりますわ!


それでは、次の更新もお楽しみに。ごきげんよう。

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