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捨てられた令嬢は隣の貧乏帝国を買い取る 〜身勝手な婚約破棄、一パーセントの誤差もなく差し押さえますわ〜  作者: 冷泉院 麗華


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第7話:隣国の皇帝は、今日も食費を削る

「……陛下。わたくし、先ほど非常に不愉快な数字を目にいたしましたわ」


 ヴァレンシュタイン帝国の皇宮。わたくし――セラフィナ・フォン・アストレアは、手に持った帝国宮廷費の決算書を、机の上に静かに、しかし抗議の意を込めて置きました。

 

 国境での勝利から三日。

 帝国軍はわたくしが提供した物資で活気を取り戻しましたが、その中心である皇宮の内部は、依然として「清貧」という言葉を履き違えたような寒々しさが漂っています。


「不愉快な数字……? ああ、食費のことか。済まないな、セラフィナ殿。君のような貴婦人を迎えるには、いささか質素すぎたかもしれん」


 執務机に向かうアルリック陛下が、困ったように眉を下げました。

 彼は今、この国の全軍を指揮する皇帝という立場でありながら、手元に置かれたロウソクは短くなったものを繋ぎ合わせ、ペン先も限界まで削り直されたものを使っていました。


「質素? いいえ、陛下。これは『効率の自殺』ですわ」


 わたくしは歩み寄り、彼の手から古びたペンを奪い取りました。


「陛下、あなたが食費を削り、暗い灯火の下で執務を続けることで、この国の生産性がどれほど損なわれているか計算されたことはありますの? 帝国の主であるあなたの健康が損なわれるリスクは、金貨何百万枚に相当する負債だとお思いかしら?」


「それは……だが、民が飢えている中で、私だけが贅沢をするわけにはいかない。伝統的に、ヴァレンシュタインの王は民と同じ痛みを分かち合うのが――」


「その『伝統』こそが最大の不良債権ですわ、陛下」


 わたくしは冷徹に言い放ちました。

 

「王が民と同じ高さに降りてどうしますの? 王の仕事は、民を見下ろせる高い場所から、彼らが這い上がるための梯子をかけることですわ。あなたがスープの肉を我慢しても、民の腹は膨れません。ですが、あなたが万全の体調で『正しい投資』の決断を下せば、万の民にパンが行き渡るのです」


 アルリック陛下は、言葉を失ってわたくしを見つめました。

 どうやらこの国の皇帝は、武力の天才であっても、自分自身の「価値(資産価値)」を計算することには無頓着すぎたようですわね。


「マリアンヌ。本日付で、皇宮内の全備品・食糧・燃料の供給ルートをアストレア商会へ一本化なさい。陛下の寝室のマットレスも、即座に最高級の魔導低反発素材に取り替えますわ」


「畏まりました、お嬢様。……陛下、お嬢様の計算に異議を唱えるのは、死神とチェスをするより無意味ですわ。大人しく従われることをお勧めします」


 マリアンヌが、眼鏡の奥で「同情します」と言わんばかりの冷ややかな視線を陛下へ送りました。


「……ふ。君に任せると言ったのは私だが、まさか私の食事の内容まで管理されるとはな」


 アルリック陛下は降参だとばかりに両手を挙げ、小さく笑いました。

 その笑顔には、王国のあの王子にはなかった、深い知性と……そして、わたくしへの確かな「信頼」という名の利息が宿っています。


「さて、清掃リストラはこれで済みましたわ。次は、帝国の『隠された資産』の棚卸しに移りますわよ。……陛下、十年前、わたくしが差し上げたあの『鉄屑』。今はどこにありますの?」


 陛下の表情が、一瞬で真剣なものへと変わりました。

 彼は無言で立ち上がり、執務室の奥にある、分厚い魔導鋼の扉へとわたくしを誘いました。


「君との『契約』の証として、最も厳重な地下金庫に保管してある。……だが、最近様子がおかしいのだ。あれが、時折妙な唸り声を上げる」


 地下深くへと続く階段を降りるたびに、空気中の魔力濃度が濃くなっていくのが分かりました。

 わたくしの「絶対金感」が、奇妙な旋律を捉えます。

 それは金貨の音ではありません。もっと古く、重く、そして……。


「……あ。この音は」


 金庫の最深部。そこには、一つの錆びた鉄の塊が鎮座していました。

 わたくしが十年前、アストレア公爵家の倉庫で見つけた「役立たずのゴミ」として、隣国の飢えた少年に与えたもの。


 ですが、今、その錆びた表面からは、溢れんばかりの蒼い魔力が漏れ出していました。

 その光の波紋は、あたかも王国の「結界の崩壊」に呼応しているかのように、激しく波打っています。


「陛下。これはもう、ただの鉄屑ではありませんわね」


 わたくしがその表面に触れようとした瞬間――。

 鉄屑の中から、透き通るような、しかし傲岸不遜な声が響きました。


『……ふん。ようやく現れたか、小娘。私を「誤差」として処理した無礼、利息をつけて返してもらうぞ』


 わたくしとアルリック陛下は、顔を見合わせました。

 どうやら帝国の地下には、わたくしの想像を超える「眠れる不良資産(神話級)」が隠されていたようですわ。


 わたくしは、不敵に唇を吊り上げました。


「お呼びかしら? わたくしに利息を請求するとは、いい度胸ですわね。……ええ、よろしいでしょう。その傲慢さ、わたくしの管理下で存分に『運用』して差し上げますわ!」


 新しい帳簿。

 その見開きに、わたくしは力強く新たな項目を書き込みました。

 ――【帝国地下資産・精霊魔導鋼。鑑定価格:測定不能。……ただし、わたくしの支配下にあるものとする】。

最後までお読みいただき、ありがとうございますわ。

皇帝陛下の貧乏生活にメスを入れ、地下に眠る「生意気な鉄屑」を叩き起こす。

セラフィナ様の快進撃、次は内政無双の始まりですわ!


自分の食事を抜くような不器用な皇帝陛下。

そんな彼を「効率の自殺」と切り捨てるセラフィナ様のドSな正論に、スカッとしていただけましたかしら?


さて、次回、第8話「有能な味方は、給与の額で決まりますわ」。

地下の鉄屑――改め「精霊鋼」の力を使い、セラフィナ様が帝国の産業構造を一夜にして作り替えますわ。

一方で、王国の王子様たちは……いよいよ「魔物の大行進」という名の不渡り手形を掴まされるようですわね。


もし「セラフィナ様の教育的指導、もっと見たいわ!」と思ってくださったなら、ぜひブックマークを!

そして、下の【☆☆☆☆☆】を、帝国の新しいロウソクのように明るい【★★★★★】にしてくださると、わたくしの「執筆資産」が爆増して、更新速度が上がりますわ!


それでは、次回の更新もお楽しみに。ごきげんよう。

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