第21話:聖都ソルレウス、全資産の時価評価を始めますわ
「……まあ。これが大陸中の信仰(金)を吸い上げた、教皇庁の本店(総本山)ですのね」
魔導列車の最上級客室。窓の外に広がるのは、白亜の巨塔が幾重にも重なる聖都ソルレウスの威容でした。
陽光を反射する純白の壁、空を切り裂くような尖塔、そして街全体を包み込む柔らかな黄金の結界。
一見すれば、これ以上なく清らかで、神聖なる「天国」の具現化のように見えますわ。
ですが、わたくし――セラフィナ・フォン・アストレアの「絶対金感」は、その輝きの裏に隠された、どす黒い「維持費」の腐敗臭を見逃しませんの。
「お嬢様。聖都の境界線まであと一マイル。……既に、教皇庁の『徴税騎士団』が線路上に展開しております。入城前の『信仰心チェック』という名の、不当な検問かと」
マリアンヌが報告を上げると同時に、列車がゆっくりと減速を始めました。
窓の外。白銀の鎧に身を包んだ騎士たちが、抜剣したまま列車の前に立ち塞がっています。
「アルリック陛下。……あの方たち、わたくしの貴重な時間を空費させているという自覚があるのかしら?」
「ふ。私にとっては、彼らはただの『障害物』だ。排除して構わんか?」
隣で剣を弄ぶアルリック陛下が、不敵に口角を上げました。
「いいえ、陛下。せっかくの入城ですもの。……まずは『法的』に門をこじ開けて差し上げますわ」
わたくしは優雅に列車を降り、出迎えた徴税騎士の隊長――いかにも金に汚そうな司祭服を着た男と対峙しました。
「止まれ、帝国の令嬢! ここは聖域である。異端の魔導具を携えた者が入城するには、一人につき金貨五百枚……神への『誠意(通行料)』を納めていただこう。さもなくば、この結界を通ることは許されん」
……おーっほっほっほ!
金貨五百枚? 地方の邸宅が一軒建つ額を、たかが通行料として要求するとは。
わたくしは扇子で口元を隠し、目の前の「集金人」を憐れむように見つめました。
「司祭様。あなた、先ほど入城の条件として『神への誠意』とおっしゃいましたわね?」
「いかにも。神の加護を受けるに値する、財という名の献身だ」
「結構ですわ。マリアンヌ、例の『債権譲渡通知書』をこちらの方へ」
マリアンヌが差し出したのは、前話でサン・ヴァロールの司祭からむしり取った、教皇庁本部に宛てた三千万枚の損害賠償請求書。
「司祭様。教皇庁は現在、わたくしのアストレア商会に対し、三千万枚の確定した債務を負っております。……あなたが要求する通行料千枚(二名分)は、今この瞬間に、その巨大な負債と『相殺』させていただきましたわ」
「な……相殺だと……!?」
「ええ。むしろ、相殺してもまだ二千九百九十九万九千枚の不足ですの。……ですから司祭様、むしろあなた方がわたくしたちを『無料』で、かつ『最優先』で案内しなければ、遅延損害金が発生いたしますわよ?」
「き、貴様……神を相手に借金の相殺を主張するなど……!」
「神様が借金を踏み倒すとでも? おーっほっほ! それこそ不敬ではありませんこと?」
わたくしの正論という名の鉄槌に、司祭は泡を吹いて沈黙しました。
陛下が静かに一歩踏み出し、鞘のまま騎士たちの剣を軽く払うと、聖域を閉ざしていた黄金の結界が、わたくしの「アルビオン」の魔力に上書きされ、ガラスのように砕け散りました。
わたくしたちは、騒然とする騎士たちを無視し、聖都の目抜き通りへと進みます。
「……セラフィナ。先ほどから、街の美しさに感心しているふりをして、随分と厳しい顔をしているな」
陛下が低い声で尋ねてきました。
「わかりますか、陛下。……この街、実に美しいですわ。ですが、美しすぎるのです。……一パーセントの狂いもなく、全ての建物が、太陽の角度に合わせて完璧に配置されている」
わたくしは、街の中央にそびえ立つ、教皇の居城「光輝宮」を見上げました。
一見すれば完璧な均整。
ですが、わたくしの「絶対金感」が、その足元にある、わずかな、しかし致命的な『違和感』を捉えていました。
「陛下。……この聖都そのものが、巨大な『魔法的洗浄機』ですわ。……どこから持ち込まれたかわからない膨大な魔力が、この街の景観という『舞台装置』を通じて、清浄なエネルギーに偽装(洗浄)されている……」
「……つまり。教皇庁の金庫そのものが、この街の形をしているということか?」
「ええ。……これほどの規模の粉飾、わたくしの帳簿からは逃がしませんわ」
わたくしは黒い手袋を嵌め直し、新しい頁をめくりました。
――【聖都ソルレウス:表面評価・AAA。……ただし、実態は世界最大の『不良債権隠蔽施設』】。
教皇庁の心臓部へ。
令嬢の、最後にして最大の「特別監査」が今、始まりましたの。
お読みいただき、ありがとうございますわ!
聖都の門を「債権の相殺」で突破するセラフィナ様……。
神様の権威を、一銭の価値もない「ただの借金」として扱うその度胸、楽しんでいただけましたかしら?
しかし、美しき聖都の正体は、魔力の「資金洗浄施設」。
教皇庁が隠し持っていた「世界の不都合な魔力」が、この街の輝きの正体だったのです。
次回、第22話「神の祈りに『手数料』を上乗せして差し上げますの」。
聖都の中心部で、教皇庁の最高幹部たちがセラフィナ様を待ち受けます。
彼らが掲げる「信仰」という名の岩盤規制を、セラフィナ様がどう論破し、解体していくのか……。
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それでは、次回もお楽しみに。ごきげんよう!




