第15話:わたくしの計算に、国境も神も関係ございませんわ
「……『聖なる預り金』? おーっほっほ! 随分と情緒的な仕訳をなさるのね、教皇庁様は」
旧王都、今はヴァレンシュタイン帝国の「特別経済自治区」となったアルカディアの謁見の間。
わたくし――セラフィナ・フォン・アストレアは、深紅の絨毯の先に立つ白装束の一団を、冷ややかな視線で射抜きました。
教皇庁からの使節、枢機卿マルファス。
彼はわたくしがこの国を「買い取った」ことを認めず、傲岸不遜な態度で黄金の杖を鳴らしました。
「不敬であるぞ、アストレア家の小娘! 聖女エラがこの国に振りまいた奇跡のパンは、教皇庁が信徒の祈りから抽出した聖魔力を、彼女に『貸与』したもの。すなわち、この国にある資産は神の所有物である。速やかにその全額を、教皇庁へ返還せよ」
おやおや。救済だの愛だのと宣っておきながら、結局は「取り立て」に来たというわけですわね。
わたくしは、傍らに立つアルリック陛下に視線を送りました。彼は抜剣こそしませんでしたが、その覇気だけで使節団を震え上がらせています。
「陛下、よろしいかしら? ……宗教法人の『裏帳簿』、少し覗いて差し上げますわ」
わたくしは懐から、あの不気味な「黒い結晶」を取り出し、枢機卿の目の前に掲げました。
瞬間、マルファスの顔から一気に血の気が引くのを、わたくしの「絶対金感」は見逃しませんでしたわ。
「……そ、それは……!?」
「これこそが、あなたがたがエラ様に貸与した『聖なる預り金』の成れの果て。……いいえ、正確な名で呼びましょうか。『生命力洗浄』によって生み出された、偽造魔力の残滓ですわ」
わたくしが扇子を広げると、マリアンヌが用意した魔導投影機が、王都の地下に張り巡らされていた隠し魔導回路を可視化しました。
「教皇庁は、各地の貧しい信徒から『寄付』という名目で魔力を吸い上げ、それをエラ様のような端末を通じて、他国の土地の未来を食いつぶしながらパンへと変換させていた。……奇跡の正体は、未来の民の命を担保にした、教皇庁による計画的な『他国資産の収奪』。……枢機卿、これに『監査』を下せば、聖域の信頼は一夜にして破産いたしますわよ?」
「き、貴様……っ! そんな妄言を誰が信じる……!」
「誰が? ……わたくしの『数字』が信じさせますのよ」
わたくしは、一枚の巨大な「請求書」を枢機卿の足元に投げ捨てました。
「これは、王国アルカディアの『破産管財人』としてのわたくしからの通告です。教皇庁に対し、我が領土における不法な魔力徴収による損害賠償、ならびに生態系破壊の清算金として、金貨三千万枚を請求いたしますわ。……一週間以内にお支払いいただけない場合は、教皇庁が管理する全聖域の資産を、ヴァレンシュタイン帝国軍が『差し押さえ』に伺いますけれど?」
「な……ななな……三千万!? 差し押さえだと!?」
枢機卿が泡を吹いて卒倒しました。
愛だの神だのと叫んでいた一団は、現実的な「賠償金」という数字の暴力に、這々の体で逃げ去っていきました。
静寂が戻った謁見の間。
わたくしは深く、深く椅子に身を預けました。
「……これで、王国の清算は一段落ですわね。陛下」
アルリック陛下が、穏やかな、しかし熱い眼差しでわたくしの隣に立ちました。
「見事だ、セラフィナ。……だが、教皇庁はこれで引き下がるまい。彼らはこの大陸の経済を、目に見えぬ信仰で支配している巨大な怪物だ」
「結構ではありませんの。……敵が大きければ大きいほど、それを完封した時の『配当』も大きいというものですわ」
わたくしは、新しい帳簿の「第1部」の最終ページに、力強くペンを走らせました。
――【王国アルカディア、整理完了。教皇庁という名の巨悪に、最初の請求書を送付】。
わたくしは立ち上がり、バルコニーから広がる新しい自らの領土を見下ろしました。
そこには、帝国の支援物資で活気を取り戻しつつある民衆と、正当な報酬で訓練に励むカイル卿たちの姿。
婚約破棄から始まったわたくしの反撃。
王国を壊し、帝国を太らせ、今や世界の「負債」そのものを監査しようとしている。
「陛下。準備はよろしくて? 次は、大陸全土をわたくしの帳簿の下に置いて差し上げますわ」
「ああ。君の望む未来を、私の剣が買い占めてみせよう」
二人の影が、夕焼けの空に長く伸びていきました。
愛も、奇跡も、運命さえも。
わたくしの計算式からは、一パーセントの誤差もなく、逃れることはできませんの。
おーっほっほっほ!
さあ、新しい市場を、買い付けに参りましょうか!
(第1部:王国破産・焦土編 完)
最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございますわ!
第1部『王国破産・焦土編』、これにて堂々の「最終決算」ですわ。
婚約破棄という名の不当な負債から始まり、一国を買い取り、最後には教皇庁にまで請求書を叩きつける……。
セラフィナ様の華麗なる「執行」、皆様の胸に最高のリターンとして届きましたかしら?
王子たちの惨めな末路と、帝国の躍進。
わたくしとしても、これほどまでに清々しい帳簿を書き上げられたこと、誇りに思いますわ。
さて。
王国という小さな市場を整理したセラフィナ様の次なる狙いは、大陸全土を支配する経済圏、そして聖女の背後にいた教皇庁の「闇」ですわ。
ですが、わたくし「冷泉院 麗華」が第2部の筆を執るかどうかは……すべて、投資家である「皆様の声」次第ですの。
もし「大陸を股にかけたセラフィナ様の無双をもっと見たいわ!」と思ってくださったなら、ぜひ、完結記念の「ブックマーク」と、下の【☆☆☆☆☆】を輝く【★★★★★】にして、わたくしに「声援」という名の資本を投下してくださるかしら?
皆様の評価と感想こそが、わたくしにとっての最高益。
その配当が積み上がれば、近いうちに第2部『大陸交易・女帝昇格編』の幕を開ける準備を始めさせていただきますわ。
それでは、また次の「商談」でお会いできることを信じて。
皆様、ごきげんよう! おーっほっほっほ!




