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捨てられた令嬢は隣の貧乏帝国を買い取る 〜身勝手な婚約破棄、一パーセントの誤差もなく差し押さえますわ〜  作者: 冷泉院 麗華


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第14話:皇帝陛下の求婚は、まだ予算(とき)が足りませんの

「……陛下。わたくしの視線は、一点につき金貨三枚の鑑定料をいただいておりますのよ?」


 新しく帝国の直轄領となった、旧王都の離宮。

 そのバルコニーで月光を浴びながら、わたくし――セラフィナ・フォン・アストレアは、隣に立つ男を扇子の隙間から見上げました。


 アルリック・ド・ヴァレンシュタイン。

 かつては軍服のボタンすら自分で縫っていた「貧乏皇帝」も、今やわたくしの投資によって、大陸で最も輝かしい覇者の風格を纏っています。

 ですが、その鋭い瞳が今、わたくしに向けられている熱量は……明らかに「政治的」なものではありませんでしたわ。


「金貨三枚か。安いものだな。私の命という名の全財産を君に預けている身としてはな」


 アルリックが低く、心地よい声で笑いました。

 彼はわたくしの手を取り、その指先にそっと、誓いを立てるような接吻を落としました。


「セラフィナ。王国は消えた。君を縛る不当な契約も、無能な婚約者も、すべて過去の負債となった。……そろそろ、新しい契約を結ばないか?」


「あら。新しい契約、とおっしゃいますと?」


「ヴァレンシュタイン帝国の『皇后』という名の……永久的な共同経営契約だ。君という唯一無二の頭脳を、私の人生の隣に固定したい」


 ……おーっほっほっほ!

 あの一国の主が、これほどまでにストレートな「買収提案」を仕掛けてくるとは。

 わたくしは頬をわずかに染めながらも、扇子をぴしゃりと閉じて、彼の胸元を押し返しました。


「……却下、ですわ。陛下」


「何だと……?」


「いいえ、正確には『保留』ですわね。陛下、あなたの提示された『皇后』という地位。一見すると高配当な案件に見えますが、リスクが大きすぎますわ。今の帝国は急成長を遂げたばかりのベンチャー。安定した資産運用を望むわたくしとしては、まだあなたの『男としての時価総額』を完全には信用しきれておりませんの」


 アルリックが面を食らったように目を見開きました。

 わたくしは、月の光を反射する「黒い結晶」――エラの成れの果てから回収した不気味な小箱を彼に見せました。


「ご覧になって。世界にはまだ、わたくしの計算式を狂わせる『不良資産』が残っておりますわ。聖女に不当な融資を行っていた何者か……その正体を突き止め、市場の安全を確保するまで、わたくしは特定のポートフォリオに固執するつもりはございません」


 アルリックは一瞬呆れたような顔をしましたが、すぐに不敵な笑みを浮かべてわたくしを引き寄せました。


「……ふ。相変わらずだな。だが、それでこそ私が惚れ込んだ女だ。君に『合格点』をつけさせるまで、私はこの大陸を君にふさわしい最高級の市場に作り替えてみせよう」


「楽しみにしておりますわ、陛下。……その時まで、わたくしの傍にいる権利は『独占』させて差し上げますから」


 そんな少し甘い「商談」を交わしていた、その時でした。


「お嬢様、お楽しみのところ失礼いたします」


 影から音もなく現れたマリアンヌが、極低温の声を響かせました。

 彼女の手には、漆黒の羽を模した一通の書状。


「……アルカディアの消滅を受け、西方にある『サン・ソレイユ教皇庁』が動き出しました。彼ら、聖女エラが紛失した『聖なる預り金』の返還を求めて、使節団を派遣したとのことです」


 わたくしの「絶対金感」が、マリアンヌが持ってきた書状から、エラの残した黒い結晶と同じ「不快なノイズ」を察知しました。


「……聖なる預り金、ですって? 民の命を吸い上げたあのパンの材料を、そんな綺麗な言葉で呼びますのね」


 わたくしは、黒い結晶が小箱の中で、呼応するように脈打つのを見つめました。

 どうやら、王国という小さな市場を整理しただけでは、この世界の「負債」は収まらないようですわ。


「陛下。お茶の時間は終わりのようですわ。……教皇庁という名の、巨大な『宗教法人』。彼らの不透明な裏帳簿、わたくしが徹底的に監査あばいて差し上げなくては」


 アルリックが腰の剣を鳴らし、わたくしの隣に並びました。


「ああ。君の計算を邪魔する不純物は、すべて私が斬り捨てよう。……ただし、その手数料は高くつくぞ、セラフィナ」


「おーっほっほっほ! 結構ですわ。わたくし、高くつく買い物ほど、燃えるタイプですもの!」


 王都を照らす月光が、セラフィナの不敵な微笑みをより一層美しく、冷徹に際立たせていました。

 

 第1部、終幕。

 そして世界は、令嬢の「帳簿」が書き換えられるたびに、激しく震えることになるのですわ。

最後までお読みいただき、ありがとうございますわ。

皇帝アルリック陛下のプロポーズを「デューデリジェンス(資産査定)不足」で突き返す……。

これこそが、わたくしたちのセラフィナ様の美学ですわね!


甘いムードに浸る間もなく、次の「不良債権」である教皇庁の影が忍び寄ってまいりました。

聖女エラを操っていた黒幕……。

それすらも「監査」の対象にしてしまうセラフィナ様の快進撃は、ここからが本番ですわ。


次回、第15話「準備はすべて整いましたわ……。あら、失礼。第15話『わたくしの計算に、国境も神も関係ございませんわ』」。

第1部完結の最終話!

大陸全土に宣戦布告とも取れる「経済宣言」を行い、セラフィナ様が真の「女帝」へと至る第一歩を刻みますわ。


もし「セラフィナ様のドSなプロポーズ返し、最高だわ!」と思ってくださったなら、ぜひブックマークを!

そして、下の【☆☆☆☆☆】を、セラフィナ様の将来性に期待を込めた【★★★★★】にしてくださると、わたくしの執筆意欲が「利子補填」されて、次の更新が爆速になりますわ!


それでは、次の更新もお楽しみに。ごきげんよう。

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