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捨てられた令嬢は隣の貧乏帝国を買い取る 〜身勝手な婚約破棄、一パーセントの誤差もなく差し押さえますわ〜  作者: 冷泉院 麗華


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第13話:有能な残党は、オークションで買い叩きますわ

「……次の方。三分以内で、ご自身の『資産価値』を証明なさって?」


 かつて豪華な舞踏会が開かれていた王城の大広間。

 今は、帝国ヴァレンシュタインの黒い旗が掲げられ、わたくし――セラフィナ・フォン・アストレアの「臨時監査室」へと作り替えられていますわ。


 わたくしは、かつての王座ではなく、その一段下に設えた機能的なデスクに座り、分厚い書類の束に目を通していました。

 目の前に立っているのは、旧アルカディア王国の騎士団長――カイル卿。

 国境で布を巻き、錆びた剣を持ってわたくしに挑んできた、あの哀れな男ですわ。


「……セラフィナ様。私には、語るべき価値などありません。殿下の無能を止められず、部下を飢えさせた……。どうか、私の首を撥ね、残った兵たちには慈悲を」


 カイル卿が、力なく膝を突きました。

 おーっほっほ! 相変わらず、情緒的な自己犠牲ですこと。


「カイル卿。わたくし、あなたの『首』などという、維持費ばかりかかって利益を生まない部位には興味ございませんの。わたくしが求めているのは、あなたの脳内に蓄積された『王国の地形データ』と『兵員管理のノウハウ』ですわ」


 わたくしは、一枚の契約書を彼の前に滑らせました。


「ご覧になって。これは、あなたの過去三年の軍務記録を、わたくしが独自に再査定したものです。殿下の無茶なパレード予算を削り、独断で兵士たちの冬靴を新調した形跡……。ふふ、会計的には『不適切な支出』ですが、経営的には『優秀な福利厚生(投資)』ですわ」


「そ、それは……。ですが、結局私は敗北し、国を失った」


「それは経営陣――つまり殿下が無能だったからに過ぎません。……マリアンヌ、彼に『初任給』を見せてあげて?」


 マリアンヌが、重厚な革袋をカイル卿の前に置きました。

 中から溢れ出したのは、帝国の刻印が入った、輝くばかりの純金貨。


「な……これほどの額を、敗軍の将である私に……?」


「投資ですわ、カイル卿。今日からあなたは、ヴァレンシュタイン帝国・特別自治区の『治安維持局長』です。その金で、散り散りになった部下たちを呼び戻し、腹一杯食わせなさい。……ただし、一パーセントでも横領や計算ミスがあれば、即座に『損切り(処刑)』いたしますけれど?」


 カイル卿の瞳に、初めて力強い光が戻りました。

 彼は金貨の袋を抱きしめ、額を床に擦り付けて咽び泣きました。

 

「……この命、セラフィナ様に捧げます。今度こそ、正しい主君のために」


 こうして、わたくしは旧王国の「有能な残党」を次々と買い叩いていきました。

 実直な文官、現場を知る工匠、そして口は悪いが計算に強い税吏……。

 彼らにとって、わたくしの提示する「正当な数字による評価」は、聖女のパンよりも甘美な救済だったようですわね。


 一方で。


「……ううっ。重い……、こんなもの、僕のやる仕事じゃない……っ!」


 広間の隅。かつての王太子ジュリアンは、粗末な作業服を纏い、泥にまみれた煉瓦を運んでいました。

 彼に与えられた職務は、魔物に破壊された外壁の再建作業。

 

「殿下。手が止まっていますわよ? あなたの時給は、あなたが壊した石畳の補修費にも足りておりませんの。もっと効率よく動いてくださらないかしら」


 わたくしの冷徹な指摘に、ジュリアンが顔を上げました。その瞳には、もはや傲慢さはなく、ただ底知れぬ疲労と後悔が宿っています。


「セ、セラフィナ……。もう、勘弁してくれ……。僕は王子だったんだ、こんな……」


「いいえ、あなたは『債務者』ですわ。……おーっほっほ! 安心なさい、あちらにあなたの『愛する人』もいらっしゃいますわよ」


 ジュリアンが視線を向けた先では、老婆のように痩せ細ったエラが、震える手で洗濯物を洗っていました。

 彼女の「奇跡」は二度と発動しません。

 民の命を吸い尽くそうとした代償として、彼女の魔力回路はわたくしとフェルムによって完全に封印されました。

 

 かつての「真実の愛」のカップルが、泥にまみれて働き、互いを罵り合う。

 ……ふふ。これ以上の「清算」が、他にあるかしら?


「お嬢様。……例のものの鑑定が終了いたしました」


 マリアンヌが、極めて慎重な手つきで一つの小箱を差し出しました。

 それは、魔獣化したエラの肉体が崩壊した跡に残されていた、結晶体。


 わたくしがそれに触れようとした瞬間――。

 フェルムが、地下金庫にいるはずなのに、わたくしの脳内で激しく警告を鳴らしました。


『待て、小娘! それに触れるな! ……それは、この世界の魔力ではない。……「外」の法則から持ち込まれた、最悪の不良資産だ』


「……外? 経済圏の外とでもおっしゃるの?」


 わたくしは、小箱の中で鈍く黒い光を放つ結晶を見つめました。

 聖女エラに力を与え、この国を破滅へと導いた「投資家」が、他にもいる……?


「……あら。おもしろいではありませんの」


 わたくしは、新しい帳簿の「第2部」の冒頭に、不敵な笑みを浮かべながら書き込みました。

 ――【新市場の発見。……この世界の「外」にある負債も、わたくしが全て回収して差し上げますわ】


 瓦礫の中から立ち上がる新しい帝国の足音が、王都に高く響いていました。

最後までお読みいただき、ありがとうございますわ。

有能な騎士たちがセラフィナ様の「給与袋」で救われ、王子様たちが「労働」という現実の地獄に叩き落とされる。

これこそが、わたくしたちの求める「正しい清算」ですわね!


カイル卿のような「報われなかった実直な男」が、セラフィナ様の下で輝き始める描写……書いていてわたくしも心が洗われるようですわ。

ですが、エラ様の残した「黒い結晶」。

物語は、一国の崩壊を超えて、さらなる巨大な「経済圏」の謎へと突き進みますわよ。


次回、第14話「準備はすべて整いましたわ……。あら、失礼。第14話『皇帝陛下の求婚は、まだ予算ときが足りませんの』」。

第1部のエピローグも佳境!

アルリック陛下が、ついにセラフィナ様への「個人的な投資プロポーズ」を試みますが……?


もし「王子たちの労働シーン、もっと見たいわ!」と思ってくださったなら、ぜひブックマークを!

そして、下の【☆☆☆☆☆】を、セラフィナ様が配った金貨のように輝く【★★★★★】にしてくださると、わたくしの執筆魔力が天井知らずに跳ね上がりますわ!


それでは、次の更新もお楽しみに。ごきげんよう。

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