表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた令嬢は隣の貧乏帝国を買い取る 〜身勝手な婚約破棄、一パーセントの誤差もなく差し押さえますわ〜  作者: 冷泉院 麗華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/24

第11話:聖女の毒を、数字で解毒いたしますわ

「さ、差し押さえだと……!? ふざけるな、セラフィナ! ここは王都だ、私の国だぞ!」


 王城のバルコニーから、ジュリアンが喉を掻き毟るような声を上げました。

 下着同然だった姿から、どこかから剥ぎ取ってきたような古びた布を纏ったその姿は、高潔な王太子というよりは、己の負債から目を逸らし続ける破産者のそれでしたわ。


「殿下。この街の道路、橋、そしてあなたが今立っているその王城の補修費。それらを十年に渡って支えてきたのは、アストレア家の『特別融資』ですわ。契約不履行に伴う担保の回収……これは経済の鉄則。あなたの感情など、一銭の価値もございませんの」


「くっ……! エラ! 言ってやれ! 君の奇跡が、この国を救っているのだと!」


 ジュリアンに促され、隣に立つ聖女エラが、一歩前へ出ました。

 彼女の頬はこけ、かつての輝きを失っていますが、その瞳にはまだ、自分が「選ばれた存在」であるという傲慢な光が宿っていました。


「セラフィナ様……どうしてそんなに冷酷になれるのですか? お金、お金、お金! そんなもののために、苦しんでいる民衆を脅すなんて……。わたくしが与えたパンがあれば、皆さんは幸せになれる。わたくしの愛は、あなたのような計算高い人には理解できない『奇跡』なんです!」


 エラが両手を広げると、わずかな光とともに、ふんわりと焼きたてのパンのような香りが漂いました。

 空腹に耐えかねた民衆の一部が、その香りに誘われるようにふらふらと前へ出ようとします。


 おーっほっほっほ!

 わたくしは、扇子で口元を隠し、王都全域に響くほどの高笑いを上げました。


「『奇跡』。ええ、実に見事な言葉ですわ。ですがエラ様、わたくしの帳簿には、あなたの奇跡の『原価』が克明に記されていますのよ?」


「……げ、原価……?」


「マリアンヌ、CEOフェルムの視覚素子を上空へ投影しなさい。……民衆の皆様。今から、あなたたちが口にしているものの『正体』を、目に見える形でお教えいたしますわ」


 わたくしの背後に控えるマリアンヌが魔導端末を操作すると、王都の空に巨大な光の幕が出現しました。

 そこに映し出されたのは、赤と青の不気味な光の波形。……王都アルカディアの「魔力収支マップ」ですわ。


「ご覧になって。青い光はこの土地にもともと宿っていた、健やかな魔力。そして、この脈打つドス黒い赤色が、エラ様の『奇跡』によって消費されたエネルギーの軌跡です」


 光の幕の中で、聖女エラを中心に、不気味な赤い触手のような光が周囲の民衆や大地へと伸びていました。

 エラがパンを生み出すたびに、民衆の体から青い光が吸い出され、赤いパンへと変換されていく様子が、誰の目にも明らかな映像として映し出されます。


「な……んだ、あれは……?」

「俺たちの体から、何かが吸い出されている……?」


 ざわめきが広がります。わたくしは、冷徹に言葉を重ねました。


「エラ様のパンは、無から生まれたものではありません。摂取者の『生命力』と、土地の『未来の魔力』を無理やり担保にして引き出した、究極の『高利貸し』。彼女のパンを一つ食べるごとに、あなたたちは自分の寿命を数日分、前払いしているのですわ。……ご覧になって、エラ様のパンを食べ続けた方々の末路を」


 投影された映像が切り替わり、国境で「枯れ木」のように崩れ去った兵士たちの姿が映し出されました。

 悲鳴が上がります。


「う、嘘よ! そんなの嘘だわ! わたくしはただ、みんなを救いたくて……!」


「いいえ、エラ様。あなたはただ、賞賛という名の『利息』が欲しかっただけ。民の命を担保にして、自分が『慈悲深い聖女』であるという虚飾を維持し続けた。……これは慈善ではなく、悪質な『生命搾取ポンジ・スキーム』ですわ」


 わたくしは馬車のステップを降り、地面を扇子で指し示しました。


「あなたがパンを焼くたびに、土地は死に、防衛結界の魔力は枯渇した。……わたくしが残した『一パーセントの誤差』。あれは結界の綻びではなく、あなたの『過剰な魔力徴収』によって結界が維持不能になることを知らせる警告灯だったのですわ」


「ひっ……あああ……!」


 エラが崩れ落ちました。

 これまで彼女を「聖女様」と崇めていた民衆の瞳から、一瞬にして光が消え、代わりに取り返しのつかない「恐怖」と「憎悪」が宿ります。


「……毒だ。あの女、俺たちに毒を食わせていたんだ!」

「返せ! 俺の親父の命を、返せよこの人殺し!」


 投げられた石が、エラの頬を掠めました。

 つい先ほどまで彼女を守るように立っていた騎士たちも、忌まわしいものを見るかのように彼女から距離を置きます。


「……計算、終了ですわ」


 わたくしは、新しい帳簿に『聖女エラ・資産価値:マイナス無限大。即時廃棄を推奨』と書き込みました。


「さて、殿下。聖女という名の『不良債権』も、もはや価値を持ちません。……この国の負債、どのように支払ってくださるかしら? わたくし、滞納には非常に厳しいんですのよ」


 ジュリアンは、腰を抜かしたままガチガチと歯を鳴らしていました。

 ですがその時。

 崩れ落ちたエラの体から、先ほどまでの「赤い魔力」とは明らかに質の異なる、どす黒い漆黒の霧が噴き出し始めました。


「……あ。……ああ……あはは……。セラフィナ様……。わたくしの愛を否定するなら……全部、全部、一緒に『清算』してあげますわ……!」


 エラの瞳が、人ならざる紅い光を放ちます。

 わたくしの「絶対金感」が、聞いたこともないような不吉な不協和音を捉えました。


「お嬢様、下がって! 彼女の奥に、何か『別のもの』が繋がっています!」


 マリアンヌが抜剣し、わたくしの前に立ち塞がりました。

 

 おやおや。

 聖女様という名の不良債権。どうやら、想像以上に厄介な『裏帳簿』を隠し持っていらしたようですわね。

最後までお読みいただき、ありがとうございますわ。

聖女様の「慈愛のパン」の正体が、実は民の命を削る「高利貸し」だったという真実。

セラフィナ様の冷徹なデータ分析で、そのメッキが剥がれ落ちる瞬間……スカっとしていただけましたかしら?


愛だの奇跡だのという曖昧な言葉も、セラフィナ様の「監査」にかかれば、単なる悪質な搾取でしかありませんの。

ですが、追い詰められた聖女様の様子が、何やら不穏ですわ。


次回、第12話「準備はすべて整いましたわ……。あら、失礼。第12話『不良債権の断末魔、お聞きなさい』」。

第1部のクライマックス! 暴走する聖女と、それを「物理的に差し押さえる」セラフィナ様と皇帝アルリックの共闘。

王国の運命に、ついに最終的な判決が下りますわ!


もし「聖女様の自業自得、最高だわ!」と思ってくださったなら、ぜひブックマークを!

そして、下の【☆☆☆☆☆】を、セラフィナ様が掲げる正義の帳簿のように輝く【★★★★★】にしてくださると、わたくしの執筆魔力が爆増いたしますわ!


それでは、次の更新もお楽しみに。ごきげんよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ