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15話〜大公〜

夜になり、先ほどまでの忙しさは少し落ち着いたように思える。

アリシアもすっかり準備が終わり、部屋でソワソワと落ち着きなく待っていた


「お嬢様」


「は、はい!」


「落ち着いてください、もうじき到着されるそうです」


アンの言葉にアリシアはすっかり固まってしまった

客人が来ることはもちろん初めてではない、だが大公家


それも、自身の婚約者の家族が来るとなると話は別だ


緊張でガチガチに固まりながらも、アンに背中をさすってもらいながらなんとか落ち着けていた時、部屋の扉が慌ただしく開いた


「お、お嬢様!」


「何ですか騒々しい、どうかしたの?」


「い、今聞いたのですが…こちらに皇帝皇后両陛下、そして皇子殿下もいらっしゃっているそうです!」


その言葉にアリシアは目を見開いた

アンはどうしましょうと慌てているが、アリシアは全く緊張はしていなかった


むしろ、皇子と出された瞬間緊張など吹き飛んだ


“エイベル…”


アリシアは表情にこそ出さなかったが、心の中は怒り一色だった

ドレスの裾を握りしめ必死に耐えていた


「ねぇ、晩餐会には参加されるの?」


「い、いえたった今皇宮を出発されたそうで、顔を出すだけだそうです」


「そう…」


アリシアが緊張していると勘違いしたのか、アンはアリシアの目線に合わせるようにしゃがみ込み、手を取った


「大丈夫ですよお嬢様、今日まで礼儀作法も真面目に取り組んできたではありませんか

誰が何と言おうと、私はそれを知っています」


「アン…」


“緊張していたわけじゃないのに…”


余計な心配をかけてしまったことにアリシアは申し訳なさを感じる


アンはそんなアリシアを見て、笑った


「大丈夫です、どれだけお嬢様が失敗されようと、少なくともあのバカ皇子よりはマシな失敗に決まっています」


アンのその言葉にアリシアは噴き出した

声を上げて笑うアリシアを見て、アンも皇帝たちが来ると伝えに来た侍女も、ホッとした顔をした


「そうですよ!お嬢様は頑張ってらっしゃるんですから!あのバカ皇子なんてお嬢様の足元にも及びません!」


「ふ、2人とも下手したら不敬罪よ」


肩を震わせながら言うアリシアにアンと侍女は顔を合わせ、微笑んだ


「お嬢様が笑ってくださるのなら、不敬罪でも構いませんよ」


アリシアはその言葉に笑いを止め、パッと2人を見た

2人ともニコニコと笑っている


アリシアはそんな2人をみて、胸が熱くなった


“前の人生の私はバカね、こんなにも優しい人たちを捨てて皇子なんかを選ぶなんて”


アリシアは2人に微笑んで、口元に指をやった


「なら、これは3人だけの秘密ね」


「えぇ勿論です」


「はい!お嬢様!」


アンと侍女はアリシアの緊張がほぐれたと勘違いしてくれたらしく、微笑んでくれた

そうこうしている間に、空いた窓から馬車の車輪の音が聞こえた


恐らく大公家の馬車だろう、アリシアとアンは顔を見合わせコクリと頷いた


「じゃあ行ってくるね」


「はい!楽しんでくださいねお嬢様!」


「うん!」


アリシアは侍女に手を振ると、アンと共にジョシュアたちを出迎えに出た


外に出ると、まだジョシュアたちは馬車からは降りてきていなかったがレオとベイリーはすでに外で待っていた


「あらアリシア、綺麗にしてもらったのね。よく似合ってるわよ」


「大公家が来る用事なんてなければ、今すぐにでも画家を呼んだのに…!」


アリシアのドレス姿をみて微笑む母と、悔しそうにする父


何とも対象的な反応である


だが、画家を呼ぶと言っているのだから似合っているということだろうと、アリシアは勝手に解釈することにした


「お前は相変わらずの親バカだな」


後ろからレオでもジョシュアでもない低い声が聞こえ、アリシアはそちらを振り向いた


馬車の扉が開いており、降りてきていたのは美しい銀髪を持ち、瞳は金の瞳を持った端正な顔立ちの男だった


「うるさい!こんなに可愛いんだぞ!当たり前だろう!」


「兄上にも同じことを言っていたらしいな、恥ずかしくないのか?」


「娘の自慢をするのになぜ恥じらう必要がある!」


レオの言葉に溜息を吐いた男は、アリシアの方に目を向けた


アリシアはすぐにその人物が何者なのか理解した


ジョシュアと同じ銀髪に、金の瞳


アリシアは左手でドレスの裾を摘み、右手は胸に当てお辞儀をした


「大公閣下にご挨拶申し上げます、アリシア・ハーシェルと申します」


ジョシュアの父であり、現皇帝の弟、この国の大公


アール・エル・ド・シストア


「…娘はまともだな、奥方の教育がいいんだろう」


「私じゃなくて侍女長のアンです、私はつい甘やかしてしまうので」


「…そういえば君たちは2人とも親バカだったな」


溜息を吐くアールの後ろから、ジョシュアがヒョコッと顔を出し、アリシアに手を振りながら近づいてきた


「やぁアリシア、1ヶ月ぶりだね」


「はいジョシュア様」


「なんだもう名前で呼び合っているのか」


名前で呼び合う2人にアールは少し拍子抜けしたとでもいうような表情をした


ジョシュアはその父の様子に揶揄うように笑いながら、話しかけた


「父上だって、母上と婚約してからすぐ名前で呼び合ったそうじゃないですか」


「よく知っているな…」


「父上も僕も婚約者には一目惚れって…遺伝ですかね?」


アールは気まずそうな顔をして、ジョシュアから顔を背けた


同じく、レオもそれに咳ばらいをして動揺を誤魔化していた


どうやらジョシュアの方が一枚上手のようである


「お前の息子は一体どんな教育をしているんだ」


「大公になるにふさわしい人間に育てているが?」


アリシアは、レオとアールのやり取りを見上げて、『仲がいいんだな』と微笑んだ。

それもそのはず、レオは皇帝と仲が良く、弟であるアールともよく遊ぶ仲だったのだ


少し違うのは、皇帝とレオは馬鹿ばかりやっていたがアールはそれを止めるストッパーのような役割だった


レオと皇帝は成績は優秀、生活態度は最悪な教授が頭を抱える存在であったが、反対にアールは成績も優秀、生活態度もよく模範的な存在だった


しかも、兄とレオを止められる唯一の存在であったため教授からも一目置かれていた


「兎に角、立ち話も程々にどうぞお入りください」


アリシアはずっと外で話していたことにやっと気が付き、声をかけた


「そうだね、じゃあ行こうかアリシア」


「待て!勝手に手を繋ぐんじゃない!」


後ろからレオの叫び声が聞こえてくるが、ジョシュアは無視してアリシアの手を引いた

その様子に、ベイリーは微笑んでいるがアールは溜息を吐いている


「もう少しどうにかならないのか、お前の親バカは」


「ならん!というか、年上だぞ!敬語を使え!」


「大公だぞ、敬え」


後ろで言い合いをしながらやってくる父とアールに苦笑いをしながら屋敷へと入っていく


少し騒がしい晩餐会が始まった

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